2015年6月20日土曜日

新型光ストレージへの妄想  その3 (YC分離)

今回はより一層ストレージとは違う話題になってしまいました.orz

元は白黒放送だったTV信号にどうにかこうにかしてカラー信号を重畳したNTSCのテクニックが秀逸だと思うので、その件を書こうと思います.こちらのページを参考にさせていただきました.  http://elm-chan.org/docs/rs170a/spec_j.html

↓前回、走査線一本分の白黒信号は、例えばこんな波形だと書きました.
↓走査線一本の波形を模式的にこんな絵だとします.NTSC規格によると、この走査線の周波数は15734Hzと細かく決まっています.画面1コマの走査線数が525本ですから、15734÷525=29.97Hzと計算され、俗に謂う毎秒30コマは正確には29.97コマなんです.
↓走査線は画面の上から下へ向かって並んでこの絵のようになっています.NはN本目の走査線の意味です.
ここで、NTSC信号を考察する際に常につきまとう重要な前提を導入します.
大雑把に言えば、隣り合った走査線同士は似ている
だとするならば、ビデオ信号は、大雑把には15734Hzの繰り返し波形に過ぎない、と見てもいいわけです.
ビデオ信号が、大雑把に15734Hzの繰り返し波形なのだとすると、こうも言えます.
ビデオ信号は、大雑把には15734Hzの高調波で出来ている
つまり、このように永久に続く高調波の合算がビデオ信号なのだ、という風に周波数領域でビデオ信号を理解するコトもできる、というわけです.もっとも、ビデオ信号はせいぜい数MHzぐらいで打ち止めですから、無限に続くわけではありませんが.
 基本波          15374 x 1   =  15,734 Hz
 2次高調波    15374 x 2   =  31,468 Hz
 3次高調波    15374 x 3   =  47,202 Hz
     :
 226次高調波 15374 x 226 = 3,555,884 Hz
 227次高調波 15374 x 227 = 3,571,618 Hz
 228次高調波 15374 x 228 = 3,587,352 Hz
 229次高調波 15374 x 229 = 3,603,086 Hz
     :
この表でどうして第227次高調波などというハンパな高調波をわざわざ計算したのかというと、カラー信号の3.58MHzに近い周波数だからです.カラー信号処理回路に不可欠な水晶発振子の周波数は、正確には3,579,545Hzなんです.この周波数もNTSC規格で決まっています.
上表の、第227次高調波と第228次高調波の中間の周波数を計算すると、
(3,571,618  +  3,587,352 ) ÷ 2 = 3,579,545 Hz
おやおや~、なんと、カラー信号の周波数とピッタンコ一致するじゃありませんか? これが、白黒TV信号に、どうにかこうにかしてカラー信号を重畳させた、NTSC信号の巧みなところでして、要点はこういうコトです.
 1) 白黒信号の周波数成分は15734Hzの高調波ばっかしである
 2) カラー信号を、白黒信号の周波数の隙間に埋め込むため、3,579,545 Hzにした
 3) このテクニックを周波数インターリーブと呼ぶ
このような仕組みをまだ真空管しか無かった時代に考え出したUSAの技術者はスゲエなぁとヒラサカとしては感心するコトしきりです.

↓結果として、白黒信号にカラー信号を重畳させた波形は例えばこのようになります.波形だと混ざって見えますが、、、、
↓周波数領域ではこのように混ざってません.15.734Hzの隙間を埋めるように、白黒とカラー信号が行儀良く棲み分けています.
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ここまでは、白黒信号とカラー信号をどうやって混ざらないように上手に混ぜるかというハナシでした.以後は、混ぜてしまった白黒信号とカラー信号をどうやって分離するか?についてです.

↓白黒信号とカラー信号が混ざったビデオ信号の周波数スペクトラムはこんなになっています.白黒信号はDC~5MHzぐらいまで分布します.カラー信号は2.5~4.5MHzぐらいまで分布します.上図のように拡大すると白黒とカラー信号は棲み分けているのですが、この図のスケールで観測すると重なって見えてしまいます.これをどうやって分離するか?
↓すごく古い小型テレビでは、2.5MHz以下を白黒信号、2.5MHz以上をカラー信号として分離していたと思います.この回路だと2.5MHz制限のせいで解像度が劣化するのが欠点です.またカラー信号に白黒信号が混ざってしまい、色ノイズが生じるのも欠点です.
↓本当はこのように混ざったところもスカッと分離したいわけです.1980年代になると、TV画面サイズが21インチ~28インチなどと巨大化するにつれて、水平解像度XXX本みたいなスペック競争が生じたせいで、白黒信号(Y信号)とカラー信号(C信号)の高性能分離(YC分離)回路も改善されてゆきました.
↓混ざった状態の3.58MHz付近を拡大するとこうなっています.周波数インターリーブの効果によって、白黒信号とカラー信号がお互いを侵害しないように隣同士で並んでいます.
↓ならば、もしものハナシですが、こういうスゲー細かいフィルタがあったとしたら、白黒信号とカラー信号をスパッと分離できるわけですよね? こんな変なフィルタなんかあるのか?
それがあるんだなぁ.そのフィルタをクシ型フィルタと呼びます.

↓クシ型フィルタを実現するには、今はもう使われなくなったテクノロジであるガラス遅延線というのを使います.ガラス遅延線というのは、謂わば超音波のビリヤードです.長方形のガラスの隅に圧電素子を貼りつけておき、超音波を送信すると、ガラス内部を反射して一定の時間遅れで受信できます.その遅延作用を遅延素子として活用できます.YC分離回路に使うガラス遅延線の遅延時間は、
走査線の周波数=15734Hz  →  63.557μ秒
になるように設計されます.この遅延時間を実現するためのガラス遅延線のサイズは、30x50mmぐらいだったかな.プリント基板上に載るパーツとしては異様に大きなサイズでした.今ではAD変換とRAMで遅延を実現しますから、ガラス遅延線を使う場面は無いと思いますが.
↓63μ秒の遅延時間を、TVやビデオ技術では、1H遅延線などと呼びます.1HのHとはHorizonすなわち水平の意味です.水平とは、走査線が真横(水平)に走るコトにちなんで走査線を意味します.1H遅延線を活用したクシ型フィルタはこのような回路になります.意外に簡単な回路で実現できます.
クシ型フィルタによるYC分離回路は、隣り合った走査線同士は似ている、という前提条件が整った画像ならば上手く働きますが、そうでない画像だと馬脚を顕して、カラーノイズを発生します.より高性能に分離する工夫がされましたが、完璧なYC分離には到達できず、最初から白黒とカラーを混ぜないのが最高だよねって初心に戻った人々が作ったのが、S-VHSに装備されたS端子でした.S端子は白黒とカラーが別々に伝送されるので混ぜないんです.

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かしこ


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