2015年1月27日火曜日

高周波でスパッとキレ味のよいリミッタ回路ってのは無いもんかねぇ

本日は回路の細かいハナシですので理解できる人はあまり居ないので、ヤバイっと思ったら読み飛ばしてくださいませ.

リミッタ回路を設計(シミュレーション)しているんだけど、予想通り、DC~数10MHz帯域でスパッと切れるリミッタってのは案外難しいもんなんです.
要求仕様は、
●10MHzの正弦波がスカッと切れて見えるくらいの応答速度
●PN接合の温度特性でドリフトしちゃダメ
●リミッタレベルはボリウムで可変できる

使ったオペアンプはLT1818という、広帯域かつユニティゲインで安定な製品.LinearTechは回路シミュレータを提供しているので設計が楽です.アナデバでもシミュレータが何かあるみたいなんだけど、使ったことがないんだよなぁ.アナデバの方が好きなんですがね.

以下、回路検討の流れを再現.回路設計の風景を感じとってもらえれば幸いです.

【その1 オペアンプ整流回路】
スカッと切れてドリフト無しって要求ですから、オペアンプでよくある整流回路で基本性能を確認してみますとイマイチです.10MHz 4Vppの整流波形にグリッチが生じています.1.2V辺りのツノがグリッチです.
↓回路はこちら.おかしなグリッチが生じる原因は赤い電流です.
赤い電流は何かというと、正弦波がマイナスに触れている期間にD1を通じてオペアンプに流入することで、オペアンプの駆動能力を打破するように作用します.オペアンプとしても最大限努力するので100mAも流し込まれてようやく降参してます.痛いハナシだ.
このようにリミッタ回路の本質は、誰かの出力能力を、別の誰かに打破させるコトでリミット(制限)する仕組みです.打破されたオペアンプはしばらくボーッとしてしまうので、正弦波がプラス電圧に転じた直後の時期にグリッチが生じているんです.

結論: グリッチがあるからダメ~

【その2 ダイオードリミッタ】
リミッタ回路はどっちが勝つかの回路ですから、ダイオード同士をつきあわせて競わせてもOKです.ダイオードBAT54はショットキーダイオードです.
この回路ならグリッチは生じません.この回路のオペアンプはフツーに線形動作してるだけだからです.スイッチングはD2にお任せです.
けれど、欠点がふたつ.
欠点1: D2のVfだけ直流電圧が降下してしまう  →許せん
欠点2: しかも電圧降下には温度特性がつきまとう (温度ドリフト)  →許せん※
結論: 温度ドリフトがあるからダメ~

※Vfはシリコン原子のバンドギャップポテンシャルに由来するので、ダイオードやトランジスタのVfが温度依存性を持つのは面倒くさいけれど避けようがありません.シリコンでは0.6~0.7Vぐらいあります.ショットキーは少し低いです.

【その3 トランジスタリミッタ】
どーせ結論は温度ドリフトでダメだと判っているが惰性でもうひとつやってみる.
ダイオードに勝ち負けを競わせるのではなくて、トランジスタで勝ち負けを競わせる回路.この場合は、負けたトランジスタはVbeが逆バイアスになって死ぬ仕組みです.
↓エミッタに出てくる波形はこのとおり美しいですが、Vbeの分だけ電圧降下し、しかも温度ドリフトに見舞われます.
パッシブ素子であるダイオードで構成した方が特性は何かと安定なので、この回路のメリットはナシ.その2の方がマシ.

結論: その2がマシなのでダメ~

【その4 ダイオードリミッタ 温度ドリフト改善版】
温度ドリフトは絶対に嫌なので、「その2」から温度ドリフトの発生源であるダイオードを撤去したのがこの回路.オペアンプの出力抵抗を100Ωに設定し、それには楽勝ですぜっていう心です.100Ωのおかげでオペアンプに流れ込む過大電流も阻止できます.
↓これが波形.信号の温度ドリフトは解消したけれど、いくつかの問題をはらみます.
 欠点1: 100Ωと900Ωで分圧されて信号が0.9倍に減衰してしまう   →許す
 欠点2: リミッタレベルは、D1のせいで温度ドリフトしまう   →許す
 欠点3: リミッタのキレが悪くてもっさりしている  →微妙
結論: これでリミッタのキレさえ治ればなぁ

【その5 トランジスタリミッタ 温度ドリフト改善版】
リミッタの切れが、もしかしたらトランジスタで改善しないかと思って試してみたのがこちらの回路.ダイオードの代わりにトランジスタを置いたもの.
↓少しキレが良くなったかもしれないというぐらいでしかない.これじゃぁ「その4」がマシ.
結論: リミッタのキレはあまり改善せず、ボツ.その4がこれまでのベスト作品.

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その4でキレが悪い原因は何か?
これまでのベスト作品である「その4」のキレを改善できないか?
キレの悪さはD1の直列抵抗2Ωが一因らしい.2Ωを小さくするためにD1を2ヶパラ4ヶパラにすると容量成分が増加してダメになる.相対的にR2を大きくすると、D1の容量の影響を受けやすくなってダメになる.そういうトレードオフのためこれ以上改善できそうになく.
ダイオードを変更したら改善するか?
シミュレータのライブラリの中ではBAT54(ショットキー)が最善でした.
BAT54でも役不足となると、こういう用途にうってつけなPINダイオードに期待ですな.ライブラリに存在しなかったんでPINダイオードのシミュレーションはできませんでしたが、実際に回路を手作りする時にPINダイオードを試そうと思います.さすがに秋月にはPINダイオードは売られてないみたいです.

PINダイオードじゃなくちゃ実現できないような難易度のアナログ回路を設計するのは楽しい.

#シミュレートしてみたら、PINダイオードはSWには向くけれど、整流には向かないみたい.

リミッタごときであ~るが、リミッタはそれなり~に難しい.予想通り~.
(低周波のリミッタなら簡単なんだけどね)

かしこ


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8 件のコメント:

  1. オペアンプは応答性に問題があるので、入力インピーダンスは低いですが、コンパレータでやってみられては?
    オペアンプですが、ご参考になります?
    2.suk2.tok2.com/user/nonnno-protok2/img/2008-05-24-0.JPG

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    1. アナデバのICですね.
      シミュレータはLTSpiceを使っているのですが、アナデバのSPICEモデルをLTSpiceに導入しようとしてるところです.1つ成功しました.

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    2. AD820 は見つけました。
      www.analog.com/jp/all-operational-amplifiers-op-amps/operational-amplifiers-op-amps/ad820/products/tools-software-simulation-models/index.html?location=tools-software

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    3. ADnoSpicecモデルは、回路図シンボルを含んでない(TEXTだけ)なので、自分で回路図シンボルと作らなくちゃいけないんです.昨夜、2ヶのシンボル作成に成功しました.

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  2. その3からVbe分持ち上げればいいよ。

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    1. あ、まーさんだ.Vbeの温特を綺麗に補正する上手い手段は何かないでしょうか?
      ビデオじゃないんでクランプはしたくないところですが.

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    2. BJTだと、少し外れませんか?
      2.suk2.tok2.com/user/nonnno-protok2/img/2008-05-23-0.JPG

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    3. AD628 コンパレータです
      www.analog.com/jp/special-linear-functions/comparators/ad628/products/product.html
      難問
      www.analog.com/jp/content/RAQ_index/fca.html

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