2014年3月19日水曜日

SF小説「都市と都市」読了、意外な感想

本を買っても一気読みをあまりしないわたしが薦められてチャイナ・ミエヴィルの「都市と都市」を読み始めたのは12月の京都を訪れたときだったから、読了に3ヶ月ぐらいかかったことになります.

SF業界で高く評価されたこの小説、わたしの第一の感想は、SF業界ってこういう作品を高評価する業界だったのか、、、、っていう驚きでした.

いちおうハードSFの部類に入るであろうこの「都市と都市」という作品を読了して、あまりSF小説には造詣の深くないわたしですが自分のハードSFの読書体験をの流れ思い出してみると、、、、、「星を継ぐ者」のような宇宙探検小説に酔い痴れていたのが、やがて「ニューロマンサー」で始まるサイバーパンクですっかり内的世界に入りこんで抜けられなくなったかと思ったら、「ディアスポラ」の量子力学的宇宙小説でまだSF小説が書けるんだと感心し、「戦闘妖精雪風」のジャムのように人類が理解不能な知的生命を描く努力もしつつ、、、、結局SFという文化は外界認識の拡大と内的世界の深化を振り子のように行ったり来たりしていたのではなかろうかと思っているんです.

そういう振り子の振れ幅の中に位置するであろうと思って読み進めた「都市と都市」は、果たして振り子をグルグル回して紐が切れて飛んで行ってしまったかのような作品だと思われました.(と言っては不敬でしょうが)

以下はネタバレ的あらすじです.

舞台は現代の地球.ユーゴスラビアあたりのとある都市.ベジェルという国と、ウルコーマという国が同居している窮屈な都市.
その都市はとても風変わりな制度になっている.国が異なるので行き来にはパスポートが必要なのだけれど、物理的には完全に雑居状態になっていて、自分はベジェルに登記された家に住んでいるが、隣人はウルコーマ人で土地も家屋もウルコーマに登記されている、なんていう状況.
そこで人々はとても風変わりな振る舞いを要求されている.すなわち、相手国の風景や人をジーッと見てはならないのである.しかし見なくてはぶつかってしまうのでぼんやり見るけれども凝視してはならないと訓練される.同居してない振りをする.それは警察官でも同じ.
もしも越境したりすると、「ブリーチ」という取締管(国家の役人ではなく謎の組織)に逮捕されてしまう.人々はブリーチを恐れている.
これが「都市と都市」の超絶風変わりな設定.

事件が起きる.USA人の女性が殺される.主人公のベジェル人の捜査官が彼女の死を捜査するべくウルコーマへ派遣され、彼が知る真相とは何だったのか???

ブリーチが謎の宇宙人だったとかそういうストーリーではありません.理不尽な体制を転覆し二重都市が開放される革命劇でもありません.オーパーツ風の謎の出土品がほとんど唯一のSF的小道具だけれどそれは全くストーリーの本筋には無関係であり、過激派を私利私欲のために騙して利用した男が主犯だった.動機はほぼ経済的理由.

捜査の過程でブリーチに捕らえられた主人公は、自らがブリーチという裏の存在にスカウトされ、ベジェルからもウルコーマからも乖離した透明な存在になり物語は終わる.ブリーチはいろいろな経緯でスカウトされた隊員から成る超法規的組織のようです.ウルトラマンの科学特捜隊みたいなものか?

あらすじは以上です.

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設定がユーゴスラビア付近であり、二重都市であり、これは何かしら民族の融和とかを引っかけているのであろうなどという社会学的な勘ぐりをしたくなってしまうのですが、巻末の解説によるとチャイナ・ミエヴェル自身はそのような受け止められ方をされたくないそうです.チャイナ・ミエヴェルとしては二重都市という制限事項の元で書くミステリー小説を成立させることに興味を抱いてこの小説を書いたと.

そして同様の理由でSF業界からも高い評価を得ているということのようです.「都市と都市」は様々な賞を受賞しています.

へーっ、SF業界って『制約下での最適化作業を評価する』こともある業界だったのか? なんだか脚本コンクールの新人賞みたいな玄人めいたテクニカルな褒め方は意外でした.

SFのことはよく判らないのでこんなところで筆を置くことにしようそうしよう.

かしこ


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