2013年1月18日金曜日

787の運行停止か、悲しいね

ボーイング787で起きたリチウム電池の焼損事故のせいで、真相究明されるまで787が運行停止になりましたのは、皆さんご存知のことかと思います.あの事故につきましては、スペースシャトルチャレンジャーの爆発事故のような、沈痛な思いに駆られているわたしです.
(リチウムイオン充電池が正式ですが以下ではリチウム電池と書きます)

航空機というあれだけ高価な設備機材が、いつ解除されるかもしれない運行停止になってしまったという痛い事実は、かつてビジネスマンだった者として、関係者の今と今後の多大なご苦労を察するに余りあるものがあります.今起きている出血をどうリカバリするか、重くのしかかる償却費用、困難な原因究明とそれでもしなくちゃいけない関係各機関へのご報告、パートナーへのお詫び行脚と損害賠償、、、、関係者の皆様に深くご同情申し上げます.

リチウム焼損事故のたしか数日前だったかと思いますが、JALの787が整備中に燃料漏れを起こして、その原因が、本来同時に開くはずのない燃料バルブが同時に開いてしまったため、燃料を排出するのと同じ事態になってしまったシステム問題と推察されるというニュースがありまして、国交省の調査チームが発足したそうでした.太平洋の真ん中で燃料を捨てちゃったら墜ちちゃうので、運行停止処分になったりしねえだろうなとそのとき思いました.

がっ、燃料漏れなんて軽く消し飛んでしまうかのごとくリチウム電池焼損事故が起きて、サクッと運行停止になってしまいました.搭乗していた乗客は怖がっていたそうですけど、いちばん恐怖におののいたのは運転手さんだったんじゃないでしょうかねぇ? あらゆる計器が電圧低下アラームを出したそうですから、良く引き返せたものです.
不謹慎ながら、その時の運転手さんの心境を言い当てていると思われるマンガのコマがこちらです.攻殻機動隊2.0より転載.
787で燃えたというリチウム電池について、間違いをふんだんに含んでいるかもしれないエッセイを以下に書きます.

リチウム電池が燃えるメカニズムは明解で、過充電すると金属リチウムが結晶成長して、セパレータを突き破り、セル内部がショート状態になり、爆発的に燃えてしまうらしいです.リチウム電池の過充電は死を招きます.

リチウム電池が爆発的に燃えることの危険性が世界中に知れ渡った事件は、ソニーのVAIOが燃えたという一件がきっかけだったと記憶しています.あのとき、原因究明が出来たのかというと、できなかったと記憶しています.燃えカスなんか解析できないし~みたいなハナシです.製造工程の塵が核になって金属リチウムが析出したのか、あるいは塵がセパレータを食い破ったのか、そういう推測の元に製造工程をクリーン化したとしても、数100万個に1つ起きるかどうかの事象を統計的に効果判定するのは神様でもないかぎり無理です.

VAIOのリチウム電池が燃えた真相究明ができなかったので、電機メーカーはどうしたのかというと、フェイルセーフ回路を付加することで燃えなくする、という方向に走ったとわたしは理解しています.
リチウム電池充電回路の仕組みは、丁寧にはこうなっているみたいです.
  1) 最初に10Cもの定電流で充電する      (過充電すると燃える)
  2) 単セル電圧が4.1Vに到達したら、定電流を止め、代わりに4.1Vの定電圧充電をオンする    (定電圧充電なら過充電には至らない)
  3) 個々のセルの電圧監視をするか、複数セルの電圧監視でお茶を濁すかは設計の丁寧さ如何である
  4) さらに、充電回路とは別体のセル電圧監視回路を設ける.個々のセルの電圧が4.1Vを超えたら、問答無用でヒューズを切る.そのリチウム電池パックは使用不能になる

4がある限り、過充電を止められるので焼損事故は理論的に起きないであろう.なお、4.1V未満で発火するリチウム電池は存在しないということを電池メーカーの責任で保証せよ.とまぁこんな論理をリチウム焼損事故防止の拠り所に採用したわけです.具体的な事例も知っています.-----もちろん丁寧さを欠く充電回路も存在しますが-----

たかが地上で使う電気機器ですら上のごとくですから、787のリチウム電池にはもっと高度なフェイルセーフがハリネズミのごとく施されていたと推測するのが妥当だと推測します.
  ●セルの4.1V保証はあらゆる環境条件で検証し保証する
  ●各セルの電圧監視はいわずもがな的に実装する
  ●セルの保証電圧は4.1Vだが、安全のために4.0Vまでしか充電しない
  ●充放電履歴をログに保存する     (FLASHが焼損してないことを祈願します)
  ●異常充/放電のアラームシステム
  ●異常電圧時のシャットダウンシステムとバックアップシステム
  ●温度センサ、セル内圧センサ、ベント開放センサ
  ●充放電プロファイルから残寿命をアラームするシステム
こんなふうにあれこれとハリネズミ化すれば、リチウム電池が焼損する事態はほぼほぼ撲滅できると思うのですが、それでも今回リチウム電池が焼損してしまったのはどうしてでしょうか?

予想1:
充電回路がバグっていて、無茶な過充電をした.それに加えて、セルの単体電圧監視回路-----最後の砦-----が装備されていなかったか、あるいはこいつも故障していた、という説.2つの故障が同時に発生する確率は小さいので信憑性に欠けますが、こういったシステム問題であれば復旧は早いと思います.

予想2:
充電回路は正常だったが、セルが3.98Vで発火してしまった.つまりセルの品質の問題.こちらの方が可能性が高いようにわたしは思います.そしてもしそうだったら、原因究明はほとんど不可能だと思います.VAIOの発火原因がわからなかったのと同じことです.そして787を飛ばせない期間が長くなり、不幸が幾何級数的に累積します.

システム問題なのか、セル問題なのか、その切り分けができた時点で、関係者が味わう不幸の深みが知れると思います.セル問題じゃないといいですね.

そのうち日経エレあたりが787のリチウム電池システムを特集するような気がしますけど、驚くほどプアなシステムだったりしたら、787を載りたくない乗り物認定することになるでしょう.リチウムは燃えるのがフツーなのであって、燃えないように使うしかないのです!

かしこ


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17 件のコメント:

  1. フランスのタレス社の回路がとっても怪しいけど、電池単体でも対策されているのになぜ激しく燃えるほど過充電なんだろ?? 不思議ですね。

    http://www.gs-yuasa.com/us/technic/vol7/pdf/007_01_014.pdf
    「LVP65電池を8直列に接続した組電池“LVP65-8”の外観写真および仕様をそれぞれFig. 10およびTable 3に示す.組電池内部にはLVP65電池に加えて,BMUとコンタクタとが備え付けられている.BMUは常に電池電圧および組電池内部温度を監視し,異常を検出した場合には,充電を停止するよう充電器に信号を出力する機能を備えている.また,常に電池電圧を均等化するためにバランサー機能を備えている.これらの機能に加えて,航空機用電池に要求される高い信頼性を実現するために下記に示すような機能を追加した.
    (1)組電池のいかなる故障も検知する自己診断機能
    (2) 過充電などの異常モードに対する独立二重保護機能
    (3) コンタクタを用いた組電池自身による異常充電遮断」

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    1. これはよい資料ですね.
      この論文を書いた人達はいまごろ大変な日々でしょう.
      いろいろとプロテクトしているようで、充放電ログもあるんだろうと期待します.
      しかしこれだけプロテクトしていながら燃えたということは、塵がセパレータを突き破った系の、不良品解析がほとんど不可能な事象なのではないかと心配してしまいます.

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  2. GS Li-ion電池の資料tecnical reportありがとうございます。
    LVP65-8組電池を70 Aで32.2 V(4.025/cel)
    高出力の電池なのですね。
    DFRD(digital flight recoder data)が有るので離陸からのバッテリ電圧の記録は
    有るかも?
    飛行中は充電モ-ドとか言っていましたが、本当かしら?
    離陸に備え、地上で充電する事も考えられるが?

    冬場に起きているので、電池の周囲温度も関係しているのかも?(電池の充放電試験機を評価で製作した事が有ります。)
    仕様書には、周囲温度が低い時は、上手く充電が出来ない様な事が書いて有った様な?
    素人の領域を出ませんが。

    原因が究明され、飛行機の安全性が向上する事を願うのみです。

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    1. 論文を読むと、スターターのセルモーターの電源とか書かれています.そんなものにも電源供給するんですかねぇ? もっと優しく使ってあげてほしいリチウムさんです.

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  3. 謎の認定製作スタッフ2013年1月19日 23:46

    リチウム電池にも均等充電が必要なんですね。
    勉強になるレポートが多くて、為になります。
    日頃はアルカリばかりメンテしてますもので・・・。

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    1. どの種類でもバッテリを超大切に使おうとすると、セルばらつきを甘く見ないのが吉と思います.がっ、実際はNi-MHがセルばらつきまでケアするかというとコストがかかるのでそこまではしてないように思います.
      しかもNi-CdとかNi-MHはセルばらつきを無視しても寿命は縮まるけど燃えるまでは滅多に至らないように思います.
      がっ、リチウムは乱暴に扱うと激しく燃えちゃうんでねー、超大切にいたわらないと企業の品質管理体制が問われるような怖いことになりそうに思います.

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  4. セルばらつきを抑え込むのは、難しいですね?
    電池の直列接続の場合、容量の異なるコンデンサを直列に接続している様なものと考えています。
    直列接続なので、同じ充電電流で充電してるのに、同じ電荷が蓄積出来ないのかと考えて
    しまいます。これも素人の思いです。
    製造品質管理等について、花火の火薬の製造を思い浮かべてしまいます。乾電池を分解した
    時出てくる+の炭素棒と-の黒い粉+αは、何の役目等、素人の思いが、浮かんで来ます。
    ピン外れの浮遊思考より。練りも重要な要素?

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    1. 「量の異なるコンデンサを直列に接続している様」
      まさにそう思います.
      製品出荷直後は各セルの性能は均一であっても、寿命末期になるとばらついて、弱いセルが集中的に痛めつけられるというスパイラルにはまるんじゃないかと思います.なので、セル毎の充電管理ぐらい787ならやってても不思議じゃないと思いますが、どうなんでしょ?

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  5. http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E9%9B%BB%E6%B1%A0

    Li-ion電池と言っても、いろいろなTypeが有る事が分かります。
    酸化、還元式が理解出来ると、特徴が出来ますね。研究者で無いので必要は無いけども。

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  6. http://www.kansai-event.com/kinomayoi/chg/Li_CHG_W.html

    日頃、気にせず充電器をしようしていますが、Li-ion充電器の理解を深めようと。

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  7. また迷走が
    -ΔV検出が出来なかった?
    いくら電池内部に電気的な保安回路が有ったとしても、それを動作させる電源が落ちては?
    圧力弁は働かかった?
    我が家の電気ポットも水を入れ過ぎると(目盛は0.8リットルまで有る)スチ-ムエンジンの
    様に湯気を出しますが、スイッチが切れません。0.6リットルでは、比較的直ぐに切れます。
    急激な電圧、電流変動には、保護回路が働かないのでは?

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    1. Li-ionにはΔV検出は効かないんじゃなかったかしら? 物性的にそういう挙動をしないという意味で.替わりに単純に電圧監視だけでよいのがLi-ionだと思っています.

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  8. Li-ionにはΔV検出は効かない?了解しました。想像の域で記述しましたので、
    2重の安全策どこかで聞いた様な、そうそう福島の原発でしたか?
    案外と2重の安全策にもどこかに穴が有りそうな?
    何処に原因が有ったのか素人の私ですが、知りたく成って来ます。
    幼い時からの私の勉強方法は、答えを教えて貰ってから考える悪い習慣が身についていて
    なかなか抜け出せません。
    softでもそうなので、独創的な物は出来ませんね。学力も無いし、仕事は、開発部門には
    在籍していないので、中途半端で終わっています。

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  9. 自動車の鉛電池だと、ガソスタンドで1時間くらいで充電する物が有るらしいですね。
    何Cで充電するのかな1/10Cで10時間が標準のところ 1Cで充電するのかな?

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    1. そうですね、1C充電だと思います.
      なので10C充電はすごい急速充電です.

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  10. 定電流充電は、最初から最後まで一定の電流で充電する事を言うのでしょうか?
    放電時は端子電圧も下がっており充電初期は、電流値が高い様な気がするのですが?

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    1. 定電流回路とは、最初から最後まで一定電流となります.充電中に端子電圧が徐々に上昇しますが、それに打ち克って一定電流を流すという回路です.よって、充電初期は端子電圧が低いから電流がドカッと流れやすいことにはなりません.

      とはいえ、最初は10Cで、中盤が7Cで、終盤が4Cとかいうふうに意図的に定電流値を変えるような制御はやってるかもしれません.知りませんけど.

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