2012年12月7日金曜日

「RE:CYBORG 009」を観ました、あなたは観ましたか?

「RE:CYBORG 009」を観るべきかどうか、迷っていましたが昨夜観ました.
http://009.ph9.jp/staff/

石森章太郎が描いた「サイボーグ009」のサイボーグ像を壊して進化させた「攻殻」を作った張本人の1人が神山監督なわけで、その神山監督がいまさら何のために「RE:CYBORG 009」を作るのか?っていうのが観るかどうか迷っていた理由でした.

先日、「謎の彼女X」オールナイト上映のときに劇場の売店で、渡辺歩監督のサイン入り「アニメスタイル 第2号」を買いまして、その中に「RE:CYBORG 009」について神山健治監督へのインタビュー記事が載っていたので、観る気になりました.  http://animestyle.jp/

その神山監督インタビューには興味深い企画段階のエピソードが載っていました.
当初、「RE:CYBORG 009」は押井守監督で企画されていたそうです.神山さんはサブディレクターのような立場で企画会議に参加していました.
ところが、押井守がやりたい009っていうのが「ギルモアも他のナンバーズも死んでしまっていて、60歳になったフランソワーズと高校生の島村ジョーの恋愛映画にしたい」というわけです.それじゃさすがに企画が通らんだろうと、助け船を出すために様々な設定を考えたのが神山さんでした.
押井守を尊敬している神山さんですから、押井テイストを含む脚本をひねりだして、オール神山脚本を企画会議に提出.そしたら押井守が「ダメだ、こんなのオレはやらない」と却下し、神山さんは009の企画から降りるしかあるまいと思っていたら、押井守が降りて「神山おまえがやればいいじゃん」と言ったので神山監督の「RE:CYBORG 009」が実現したという経緯だったのでした.

その脚本を書いてる時に神山監督自身も「いまさら009をやる理由」について考えたそうです.ただ、その理由については、あまり雄弁に語る論拠はなかっやみたいです.こういう脚本が書けたってことは009を作ってもイイだろというぐらいで、攻殻との対比うんぬんにはこだわらずに作れたみたいです.まぁそれならそれでもいいでしょう.

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以下は映画を観た後の感想です.ネタバレなので注意してください

荒いあらすじは?
アンドロイド兵士はたくさん存在するけれど、倫理的理由かと思うがサイボーグ戦士の開発競争には至っていないという時代設定.
ナンバーズは世界各国に散って生活していた.フランソワーズはギルモアの元で諜報活動を継続.島村ジョーは記憶喪失にされて東京在住の高校生でビル爆破のテロを計画していた.
多発するビル爆破テロが、USA当局ですら犯人の正体を掴みかねている事態であることを知ったギルモアは、久しぶりにナンバーズを招集する.「『彼』の声が聞こえた」というビル爆破犯に共通するキーワードを島村ジョーも受信していたことが判り、拘束されそうになった島村ジョーであったが、フランソワーズ等の機転により脱出し真相追求のための活躍をはじめる.
いろいろとあって、弾道軌道上の核ミサイルを破壊するジョーとジェットがクライマックス.
作品の中心テーマである「彼」とはなにか? 天使、悪魔、神、など様々に描写されるが、それらは人間の脳が作った幻想であり、気の持ちよう次第で天使にも悪魔にもなりうる、ということのようです.(誤解しているかもですが...)

ナンバーズの闘いはかっこよく描かれていたか?
加速装置は3Dならではの描写で良くできていたと思います.ジェットもよかった.他のナンバーズの闘いもGOODだったと思います.「攻殻」の関節が破壊されるようなメカメカしい描写はありませんでした.「攻殻」と「009」は別のものとして楽しむべきでしょう.

観て良かった?
それなりによろしかったです.  神山ファンならもっと高評価が与えられるでしょう.

009の新しい境地を切り開いたか?
石森章太郎が描きかけて描けなかった「神」について一つの答えを出した、ということは評価されるべきなのでしょう.
009シリーズが今後もリメイクされる礎を築いたか?というとそうは思いませんでした.大変失礼ながら、「攻殻」が出てしまった後では「009」は「オワコン」に追いやられてしまったと思います.なので、斬新な解釈の「009」を再定義しないかぎり、さらなる新作009の企画は難しい気がしますが、斬新な解釈は導入されませんでした.

神山監督は大丈夫か?
009の監督をやって、クリエイターとしての彼のポジションを強化できたと思います.ただそれがわたしにとってうれしいことなのかというと、そうではありませんが...

どういうことかというと、
神山監督って、すごく健全な精神の人だと判りました.わたしが観たいのはフェティシズムなんですが、神山監督にはフェティシズムはないですね.純粋に理屈だけで、映画を正しく成立させたいという義務感だけで、監督をやれる人は珍しいと思います.そういう人は、ジブリの高畑勲さんぐらいだと思っていたのです.

押井守監督の「イノセント」では、バトーの全ての行動が素子によって観察されている、という粘着質な雰囲気が感じられます.深夜のコンビニで突然降臨した素子が「キルゾーンに入ってるわよ」とだけ警告して去ってゆくシーンによって、バトーが犬の世話をしていようが、トグサと口喧嘩していようが、いつも素子の観察下に置かれていることが強調される.プライバシーが素子に筒抜けのバトーだがどうにもできない.最後に素子に逢えたが素子はあっけなく消える.そんな男女関係の不健全さが押井守監督のフェティシズムだったと思います.

「RE:CYBORG 009」のフランソワーズも、素子と似た立場で島村ジョーの高校生活を長年監視してきたわけです.しかもその間一貫してフランソワーズは島村ジョーを愛し続けていた.その積年の欲求がスクリーンからにじみ出してくるのかというと、そうではありませんでした.記憶が戻ったジョーのところへフランソワーズが下着姿で抱かれに行くぐらいの健全さ.
それはわたしが観たいものではないです.わたしはむしろ「60歳になったフランソワーズと高校生の島村ジョーの変な男女関係」のほうを観たいです.
もっとも、神山監督なりにフランソワーズの感情をジョーに届ける仕掛はありました.高校生のジョーの電脳にだけ知覚できる彼女がいて、ジョーの不安定な精神を癒してくれます.そのVR人格はフランソワーズがジョーの電脳に植えつけたフランソワーズの代替人格だったのです.どうやら神山監督は、フランソワーズ=母、ジョー=子供という位置づけを選んだようです.う~ん、それすら健全だ.
フランソワーズとジョーが不健全な男女でなかったところが「RE:CYBORG 009」の最大の残念ポイントなんです.わたしにとって.

「東のエデン」を観て、よく練られたストーリーだけどなんか違うなぁとわたしが思っていた理由も、神山監督の健全さゆえだったのだなぁと、「RE:CYBORG 009」を観て悟りました.今後わたしは、神山監督に「健全の違和感」を感じつつおつきあいしてゆく所存です.

けれど、そんな神山監督の健全さは、ひら的にはマイナス点ですけど、彼の監督人生には大いにプラスに作用すると思います.
マイクロソフトやメルセデスがアニメマーケティングをやったり、エヴァにいろんな企業が協賛する理由はなにかというと、ガンダムをリアルタイムで観てた世代がマーケティングの部長になっていたりするケースが増えたからだと思われます.アニメマニア的にはうれしい時代になったものです.
ただしそういう立場の人が「60歳と高校生の恋愛アニメ」に金を出すには如何に押井守ブランドがあろうとも二の足を踏む.それに較べて神山監督の「健全な人間関係をベースとし、現実社会の紛争をちりばめた綿密な脚本」なら面白いと言いやすい.神山監督の企画なら通しやすい.キャリアの始まりは押井守の影武者だった神山監督でしたが、「RE:CYBORG 009」で押井守から離れて、健全さをベースとした作風の神山監督というポジションを確立したのではないでしょうか? それは神山さんのクリエイター人生にはプラスなのでしょう.

今後も神山さんはいろいろな作品を作り続けられると思います.それはアニメ業界にとって良いことだと思います.

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その他
●フランソワーズの声は齋藤千和でした.多様な声が出るのだなぁ.
http://otanews.livedoor.biz/archives/51837862.html
●同じテンポでストーリーが進行して疲れるので、途中でダレ場を入れたほうがいいと思います.
●川井憲次のBGMはよかった.


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4 件のコメント:

  1. 008もサイボーグの見せ場がほしかったですね。
    私はフランソワの胸ばっかり見ていました。
    これだけでも観る価値が、あります。

    ・・・素子って書かれると、ついつい【やけくそ天使】(吾妻ひでお)を連想しちゃいます(´▽`*)

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    1. 主役はフランソワーズでした.いやマジで.

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  2. 斎藤千和が今まで演じたキャラ一覧
    http://otanews.livedoor.biz/archives/51837862.html

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    1. ぱっと見では識別できなかったわたし

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