2011年10月27日木曜日

失業した理由シリーズ018 ヘリカルスキャンの終焉

失業した理由シリーズ017で書いた開発projectでヘリカルスキャンの技術開発は終わった.
その理由はなにか?

人類は長い間メカニカルなストレージしか持たなかった.
カセットテープもDVDもHDDもヘリカルスキャンもみなメカストレージである.

メカ無しで信頼性が高い半導体メモリをコンスーマーが潤沢に手にできるようになったのはここ5年ぐらいのことだ.

半導体メモリが登場するのはどうしてこんなに後になったのか?

それはコンスーマが要求する記憶容量があまりにも大きかったからだ.

人類の活動で最も大量にデータ生成するのはビデオである.ビデオデータはだいたい1時間で1Gバイトだ.つまり、モバイル用途で必要とされるストレージ容量は、数Gバイトなのだ.32kバイトとかいう小さな半導体メモリならば25年前からあったが、数Gバイトを1万円ぐらいの価格で実現するほど半導体の集積度が上がるには2005年ごろまで待たなければならなかったということだ.
一方、DISKやテープでは、半導体に比べ100~10000倍もの”表面積”で記憶容量を稼ぐことができたから大容量化が半導体よりも数10年先行していたわけだ.

ただし、半導体メモリにもまだ攻略できていない市場はある.

モバイル用途なら数Gバイトで結構だが、HDDレコーダーのような固定用途なら数Tバイトが必要容量である.この容量帯は目下の所HDDの独占市場だ.半導体メモリが数Tバイトまで進化するにはあと10年かかるだろう.だからHDDはまだ続く.

光DISKは今、BDが25GBで\100/枚ぐらいなので、まだFLASHよりも圧倒的に安いのが利点だ.ただし今後、BDはFLASHとHDDとCloudに挟撃されるだろうから、BDの将来には不透明感が強い.そもそも20GBのデータをDISKに焼いて保存するという行為自体がマイナー化してしまうのではないだろうか?  私はアニメのエアチェックのためにBDを使いつづけるけどね.

さて、ヘリカルスキャンが他のストレージとの競合でどうだったかというと、本来得意な容量帯が数Gバイトなので半導体とモロにぶつかり、かといって数Tバイトもの容量は苦手なのでHDDには勝てずと、どうも分が悪い.

少々値段が高くても許されるテープストリーマでは、1Tバイト級のヘリカルスキャンをがんばって開発したが、いかんせんHDDよりもデータ転送レートが遅いという弱点があった.ヘッドとテープが摺動するので、HDDほど高速走行できないのである.多ヘッド化による高速化にも物理的限界があった.

つまり、ヘリカルスキャンは半導体メモリがやってくる以前の時代で、たかだかビデオ程度の低~中規模の容量と転送レートを達成するためになら、安価で最適なシステムだったのである.

かつてのテープレコーダ屋であるソニーは、そういうメカニカル記録時代の覇者だった.量子力学やプロセス技術が支配する半導体メモリ時代の覇者にはソニーはなれなかった.

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断続的にリストラを続けてきたテープストリーマ事業部だったが、いよいよ2010年には新規開発がゼロになり、工場のメンテ業務だけになった.エンジニアの人数も最盛期には100人だったのが10人を残すのみとなった.私には工場のメンテの10人になる適性はなかったし、なる気もなかった.社内で他の仕事を探さず、ヘリカルスキャンの終焉と共に、しゅたっと辞めた.2010年12月末のことだ.

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