2011年10月11日火曜日

失業した理由シリーズ009 ヘリカルスキャンはおもしろかった (碇シンジのSDAT)

エバンゲリオンには、碇シンジが自分の殻に閉じこもるシーンを象徴するツールとしてSDAT walkmanが出てくる.このSDAT walkmanは現実には存在しない.なぜなら、ソニーが出したRDAT walkmanのパロディだからだ.このことは45歳ぐらいより年長の人しか知らないだろうな.

SDATとRDATとは、ソニー内で1980年代の最初の頃に技術主導権争いをしてたときの呼称である.技術が全然違うのである.SDATのSは、Stableの略だと思うが、つまり固定ヘッドの意味.RDATのRは、Rotaryの略で、ヘッドがグルグル回るヘリカルスキャンの意味.ソニーではRDATを商品化することになり、Rの文字をなくしてDATとして発売した.DAT walkmanも発売された.そのDAT walkmanこそが、シンジ君が持っているSDAT walkmanのデザインそのものなのである.リバースのカシャカシャ音も実機を録音した音なのかもしれない.

ちなみにSDATは後にPhilips社によってDCCという製品として発売された.ソニーはMDでこれを迎撃した.

不幸なことに、DATは技術的に注目されたものの、CDからデジタルコピーできてしまうとレコード会社から非難されたのが妨げになり、普及できなかった.

その一方で、当時は700MBもの大容量のデジタル記録装置はコンピュータ屋にとってはとても魅力的で、DATを応用したコンピュータ向けのストレージ機器が売れていたのである.DDSと呼ばれていた.記憶容量4GBのDDS2が発売されていて、次の世代である記憶容量12GBのDDS3を開発するのが研究所での私の仕事になった.カセットはDATのカセットだけど、中身のテープは異なっていて、ロゴもDDS-3となっている.いまでも秋葉のメディア屋に行くと売っている.

新フォーマットを世に出す仕事は大いにやりがいがあった.私の担当分野では、ビタビデコーダとアダプティブイコライザという新技術をコンスーマ機器に採用した最初の事例になれたと思う.(今はあたりまえの技術だが)     この場面でラッキーだったのは、同期回路って何ですか?的なロジック設計素人がいきなりverilogでLSI設計をやらせてもらえたこと.記録再生回路の基盤技術が、アナログ回路から、デジタル信号処理への移行期だったので、この分野には玄人がいなかったのだ.だから私のような素人の出番があったのである.

よい組織に所属していると、楽しい仕事が落ちてくるもんである.

しかし、そんな楽しい日々は長くは続かなかった.わたしは元々ソニーマグネスケールを辞めたいとゴネた男である.そんな奴を何年も放し飼いにしておくのはけしからんとソニーマグネスケールの人事が動き出したようで、伊勢原に戻ってこいとだんだんうるさくなってきた.折悪しく、DDS3の開発も完了する時期になり、わたしは身の振りを考えなければならなくなってきた.

--続く--     つぎへ        前へ

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3 件のコメント:

  1. 確かソニーの社内にLSI試作用のプロセスラインを持っていた時代では。FPGAではなく、モノホンのLSIを試作できるとゆう・・。
    外から見ていて、とてつもなくうらやましかった覚えが。

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  2. SiBBですね.0.8umプロセスです.ところであなたはSさんですか?

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  3. そうです~。(で答えになっているのか?)
    ⇒紫と谷が名前についています(ずばり)。

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