2017年7月13日木曜日

レールガンのドライバ回路について

アニメにも登場するレールガン、とても強い兵器なのだそうで、早く実用化されるとよいですね.小型のレールガンを自作して空き缶を貫通させたりして楽しんでいる人もたくさんいます.

レールガンは電磁力で弾を撃つのですが、リニアモーターではありません.
↓砲身の内部に並行2線が設けてあります.電極間にアーク放電(だと思う)を起こして、弾後方にプラズマ(下図黄色)を発生させます.電磁力でプラズマが動き弾が押されて飛び出します.プラズマというと大槻教授的にはUFOや幽霊の正体であり、弱っちい電磁現象という印象ですが、レールガンではたかがプラズマと侮る勿れです.
そろそろ実用化が近いといわれつつなかなか実用化されないレールガンですが、ドライバ回路はどんな構成になるんだろ?というのを回路屋的に考えてみました.


最初に、どんな弾がどんな速度で出てくるんだろ?ということで、レールガンwikiによると、こんな記述があります.
重量15kgの砲弾を初速2.5km/sで発射
これから砲身を通過する時間tと加速度aを求めてみます.
砲身の長さを10mとします.x=10mでv=2500m/sまで加速されるので、
v=at
計算すると t=8mSec、 a=312500m/s2 であってると思う.

次にどのくらいの電流を流すのか?
英語版のレールガンwiki に面白い数式があります.砲弾の加速力Fを砲身のインダクタンスと電流Iで表した式です.L'は砲身に内蔵されている並行2線の単位長あたりインダクタンスです.(この式は次元がエネルギーの様に見えるがL'の単位がH/mなので無問題なはず)
そして同wikiによるとL'=0.6uH/mぐらいなのだそうです.これは有用な情報.砲身10mの中央部を取って3uHと仮定して電流Iを求めますと、
F=ma=15kg*312500m/s2=4.7MN=3uH*I*I*0.5
   I=1.8MA      →   I≒2MA
2ミリアンペアじゃなくて2メガアンペアなのでご注意ください.
wikiによると50MAという記述も見られるのですが、効率が悪いから50MA突っ込んでも弾の加速に寄与するのはたったの2MAでしかないという事情なのかもしれません.ここでは2MAを採用して先に進みます.

次に逆起電圧についてです.2MAも流したらハンパない逆起電圧が生じると想像されます.そしてコンデンサの耐圧が逆起電圧で決まると予想します.
初期のひら予想では、電源配線インダクタンスが支配的なのではと想像していたのですけど、砲身が0.6uH/mも在るというのですから電源配線インダクタンスは無視することにします.(つまり電源配線インダクタンスを0.6uH/mより小さくできると予想)
2MAもの大電流をステップ関数的にON/OFFできるなど夢のまた夢です.ランプ関数的に増減するしかないのが現実です.そこで電流プロファイルを下線部の「始めチョロチョロ」な形に仮定します.
アーク点弧→3mSかけて3MAに到達→3MAを5mS維持→発射→消弧は知らん
主たる逆起電圧は下線部で生じると単純に考えて、
E=L*di/dt=3uH*3MA/3mS     →   E=3000V
ふひ~っ、やっぱり逆起電圧は大きいですな.逆起電圧に打ち克つため、コンデンサには少なくとも3kVの耐圧が必要だと判りました.

次にコンデンサの容量はどのくらい必要なのでしょうか?
wikiからヒントを得ると、イージス艦の25MWの発電機/毎分数発発射という記述があります.すなわち1発撃つためのエネルギーチャージはおよそ、
25MWの10秒間で250MJのエネチャージ
と推測します.
250MJとはどのくらいのエネルギーでしょうか?
250MJ=250MWSec=69kW*3600Sec=69kWh=94馬力を1時間出せるくらい
テスラ車や日産リーフにはこのくらいの蓄電池が載っていると思う.
ゆえに蓄電容量的にはそんなに凄くないとは云えます.しかし放電速度が8mSecとやたら速いのでリチウム電池では賄えず、コンデンサしかないはずです.
必要となるコンデンサの静電容量は、 (電圧は3000Vとして)
250MJ=0.5*C*V*V=0.5*C*3000*3000       C=55F
55F 3kVのコンデンサを探せということになりました.
電気二重層コンデンサなら1万個ぐらいで足りるかな.でも電気二重層は高電流の充放電では寿命が短そうなので、フィルムコンでも使うのかねぇ? だとすると特注の巨大なフィルムコンを10~100万個ってとこかな? ブルーの四角い箱がコンデンサアレイだと思ふ.

以上より、戸建て住居ぐらいは一発で粉砕できる威力のレールガンドライバに必要な要件は、
    55F 3000Vのコンデンサ
    2MA 8mSのピーク放電電流  (50MAとも云われる)
といったオーダーと推測しました.難しいのは巨大電流を達成する実装技術です.

55F/3kVにチャージしたコンデンサでアーク放電させる姿が見えてきたわけですが、逆起電圧で電圧電流プロファイルがヘロヘロになりつつ放電が進行する様が目に浮かびます.それゆえ単純にコンデンサをバチッとやっただけでは効率的な弾の加速を得にくく、何らかのIV制御と組み合わさるとモアベターだと思います.
3kV2MAを制御できるパワーデバイスが存在する気はしませんが、軍の研究ですからそういう回路ぐらい作れちゃってるのかもしれません.電車が1500V2000Aぐらいですからたかがその1000倍とも云えるわけで...

あと少しで何とかなるかもという難易度ですから、開発費が潤沢にあれば面白そうな仕事だと思います.コンデンサについてはmurataさんに強誘電体で一肌脱いでもらいたいですね.「5kV/100uFレールガン用積層セラミックC」なんてのが出回るのはちょいと物騒な気はしますが.

発電機とか砲身冷却とかシステムトータルの課題は多いのでしょう.それでも誰かが実用化すれば世界中で一斉に導入されるのでしょう.核がそうだったように.

戸建て住居を粉砕するほどでなく、車載の対人兵器ぐらいなら作れちゃいそうです.でもそういう遊びはやめておく所存です.

かしこ

2 件のコメント:

  1. >逆起電圧に打ち克つため
    インドクタンスの影響を考えた上で、所定の電流を流すために必要な電圧がxxxなので
    電源となるコンデンサはこの電圧に耐える必要がある。
    こうだと思うなあ。
    「逆起電圧」って、何に対してどう逆なのか解りづらい用語だし
    わざわざインダクタを電流で語らなくても良いと思う。

    コンデンサについて語るとき「逆起電流」なんて用語で語らないようにね

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    1. 訂正
      誤>インダクタを電流で語らなくても良いと思う。
      正>インダクタを電圧で語らなくても良いと思う。

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