2015年11月17日火曜日

拝啓EU殿、将来展望が暗く感じられますがいかがお過ごしでしょうか?

フランスのテロで100名以上が犠牲になったそうで、目も当てられない惨状であります.

どこかにストーリーを書いた陰謀家が居るのだとしたら、我々はその陰謀家が仕掛けたかもしれない前兆現象を賞賛すらしていた事を反省するべきではないかと思う.

前兆的事件をどこまで遡るべきかというと、2代目ブッシュによるイラク占領政策まで遡らなくちゃいけないのかもしれない.そこまで遡らないにしても、「アラブの春」は露骨にイカンかっただろう.

我々は世界史的な壮大さで起きたミスチョイスを目撃しているのだと思う.そのミスチョイスの元凶は、中東に対する見方が甘いというか、理想論的すぎたところにあると思うので以下その件について.

2代目ブッシュによるイラク占領政策は失敗でした.当時のUSが期待したのは、かつて戦争した日本が今では良好な同盟国になったように、イラクを中東の良好な同盟国に改造できるという勘違いでありました.ところが実際にイラクで起きたのは、スンニ派のサダム・フセインを殺したらシーア派が実権を握り、同じシーア派のイランと仲良しになってしまい、腐敗はサダム時代とさほど変わらず、イラク国内がシーア派とスンニ派に分かれて内乱状態になってしまいました.同盟国?民主選挙?そんなのどこ行っちゃったの? 当事者にとっても外野にとってもどっちが得かを考えてみれば、まだサダム・フセイン時代の方がマシだったのはもはや誰にも否定できますまい.イラクに民主主義だとぉ?ちゃんちゃらおかしいわ、というのがUSのイラク占領政策の失敗から学ぶべき教訓だったと思われます.

そして2010~2012年には、中東に民主主義の訪れという文脈で報道されることの多かった「アラブの春」が起きました.
エジプトのムバラクが「オレを支援しないとアメリカは後悔するぞ」と言いつつ、USが支援しなかったのであっけなく失脚したのがひら的には印象的でした.その後のエジプトは流動化してなにやら落ち着かないご様子.

アラブの春のおかげで災厄の舞台というか元凶と化しているのがシリア.
アサド大統領(ロシアが支援)と、反政府勢力(USが支援)と、イスラム国とが三つ巴の戦争状態で、意外にイスラム国が強くてやりたい放題でテロ輸出までしている.それが今般のフランステロであるし、ロシアの航空機撃墜事件でもある.いまどきダマスカスなんて行ったら湯川さん後藤さんレベルのリスクですけど、とある知人は2000年頃にダマスカスを旅行してましたもん.当事者にとっても旅行者にとっても、腐敗しててもまだアサド政権の方がマシだったろう.

悪いテロリストはイスラム国だと云うのは簡単です.確かに実行犯がイスラム国の意思で働いているのは事実ですけど、イスラム国が出来てしまうに至るきっかけの出来事を世界中の人々が「アラブの春」などと賞賛めいた呼び名をつけてしまう程度には前向きに捉えていたわけでしょう.USのイラク政策の失敗を、遥かに大規模に中東のそこら中でやっちゃったのが「アラブの春」だったとしかわたしには思えません.2代目ブッシュによるイラクへ民主主義を導入する実験が失敗したのを見ても学ばないのが普通なんですかね?

中東と距離の近いEUには今、難民が押し寄せてきて大変ですが、それって「アラブの春」の当然の帰結だっていう反省をどれだけしているのかな?
それがオバマの無作為の所為といえるほどオバマ一人が悪いとも思えず、EUにも相当にわけのわからん理想主義者がうようよ居て、ドイツがこの期に及んでまだ中東からの移民受け入れ政策を堅持なんかしているもんだから、それがEUに伝播して上を下への大騒動になっている.中東移民受け入れ政策なんかドイツが一人で勝手にやってる癖に、ドイツがパンクしそうになったらEU諸国も応分の負担をしてくれなんて言い出す始末.挙句の果てに日本にも飛び火してるし.まぁ日本は金だけ出してそそくさと逃げるんだろうがね. (日本には中東とは別の移民問題があるがねw)

中東諸国を民主化したい願いのどこが悪いのか?とフラストする人には逆に聞きたい.
民主主義の準備の出来ていない段階の社会に民主主義って導入できるんですか?
イスラム諸国に民主主義が根付くと思いますか?
できるんならその理論を拝聴したいが、残念ながらというかなんというか、まだしも東アジアやインドの方が民主主義の導入に近いようだが、イスラム諸国はそれどころじゃないようにわたしには見える.
中央集権体制の元で、ブルジョア階級が世俗と経済を回している、科学的合理性がそこそこ社会にビルドインされている、そういう段階に達してからでないと、民主主義を導入するのは困難ではないか? イスラム諸国は現状どうなのかというと、部族社会であって選挙で代表を決めるなんかとんでもない.宗教原理主義が至上の価値であるため、科学的合理性が下位に甘んじており、経済を回すどころではない.
そういうイスラム諸国に民主主義を導入するような危険な社会実験を仕掛けたがる奴らが、EUの政策決定者には多そうだし、オバマは間違いなくそういう理想主義者だろうし、国連界隈にもそういう連中がうようよ居そうだ.そういう連中を陰謀家と呼ぶのもよいだろう.無謀な社会実験なんかやめた方がマシだ.

EUは今後どうなるか?

基本的にもう手遅れだと思う.

目と鼻の先にある中東を荒廃するがままにしておいて、紛争の封じ込めに失敗し、難民が押し寄せ、テロの危険に晒される...それを押し戻すには、イスラム国を軍事的に滅ぼして、諸国に新たな政権を立て、独裁によって中東が再び安定するように仕向けるというのが論理的帰結でしょう.しかし今更そうするにはものすごいコストがかかる.EUが「アラブの春」を弾圧し、ムバラクやカダフィやアサドにそのまま居座っていただくコストの方がどれだけ安くついたことか.EUはそう溜め息を吐くべきだ.

イスラム国を軍事的に滅ぼし新たな独裁者を立てる.そんなことのできる国はEUには無いだろうからUSかロシアに頼むしかない.だがEUって反US反ロシアの同盟だから、USやロシアは安全保障の見返りとして相応の条件をふっかけてくるはず.それが何かは知らないがEUはその条件を呑めるのだろうか? 安全保障を誰かに依存しますと宣言してしまってもEUはEUで居られるのだろうか? (安全保障をUSに依存している日本は日本ではなくなっていると思います)

いやそもそも、EUの理想主義者達は、中東に独裁者を立てる事を承認すらできないとも思う.無為に時間を浪費する間に、今度はまたぞろギリシャだのスペインだのポルトガルだので恒例の通貨危機が火を噴いて、ついにEUは一部分を切り離し、通貨統合という壮大な実験は失敗に終わりましたなどと報道されるのもそう遠くはあるまいて.経済でよろめき、安全保障が不在で、テロと移民で社会が騒乱し、それが無謀な社会実験に身を晒してしまった帰結だったと判っていてもそれを止められないEU、というのが今後の停滞するEUの姿ではないかと想像します.

テロリストが核を起爆させたらステージが劇的に変わるのかもしれない.そのくらいの大事件が起きないと理想主義の夢から目覚めないのではないか? 仮に目覚めたとしても、USの家来に戻りますと再定義するしかあるまいが.

追記11月18日: イスラム国を叩いた後の戦後処理について、アサドは引退させるがロシアに花を持たせるためアサド派を残しつつ反体制派と融合させ、「自由かつ公正な選挙」を行うプランで各国が綱引き中だとか、、、すでに嫌な予感しかしない.民主化→混沌→イスラム国的なものの発生→EUに被害 という悪循環をそれで断ち切れるのか? USとロシアを喜ばせたい一心ならそれでも良いだろうけど.  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5628?page=2

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蛇足ながら、ミャンマーの総選挙のどこにニュースバリューがあるのか、わたしにはさっぱりわかりませんでした.NHKなんか朝7時のニュースのトップでしたからね.アラブの春を賞賛してしまうような理想主義者がミャンマーネタでヒャッハー状態なのが透けてますが、何やってんだって感じがしました.ミャンマーは軍政だから市民が虐げられている? そりゃ日本のような先進国よりは、後進的な政治体制だとは言えるでしょうけど、軍政じゃないと正気を保てない事情っていうのも後進国にはあるわけで、今後どんな揺り戻しがあるかわかりませんよ.ミャンマーが総選挙で民主化されるのがあまりにも嬉しすぎて朝のトップニュースにしてしまうような奴らのコトが、先々不幸であろうEUの社会実験屋達と同じ穴の狢に思えてなりませんでした.

エイメン


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