2015年10月12日月曜日

【伊藤潤二】 富江に人生を狂わされた男達

富江、その美貌で男を狂わす魔物.何度殺されても肉の一片から再生し、すでにどれだけ増殖したのかすらわからない.

これはリアルのハナシ.元彼女の部屋に、伊藤潤二のマンガがズラ~っと置かれていて、「富江」の面白さに瞬間的に洗脳されてしまったわたしでした.それ以来伊藤潤二作品のチェックには余念が無いわたくし、、、と云いたいところですが、伊藤潤二がどの雑誌に作品を書くかは予想困難で、見逃している作品も多々あるわけなんです.

富江のマンガ作品がどれだけ在って、どのコミックに収録されているのかすら判らないくらい現実セカイでも増殖力の強い富江ですが、富江作品集が出版されているようです.

たとえばこれがそう.2011年発刊.
伊藤潤二傑作集1 富江 上
伊藤潤二傑作集2 富江 下
コンビニで売られている¥500コミックで同じ内容の富江集が2015年9月に出ました.さくっと購入.収録内容は上記と同じであるようです.
富江 上巻 (ASスペシャル)
富江 下巻 (ASスペシャル)

下に「富江」全作品を抜き出してみました.赤字の作品は上記コミックに収録されています.

初出年月はこちらのページを参考にしました.このページにリストされている「あばら骨の女」と「顔面固定」は確認の結果「富江」ではなかったので除外しました.「銀河」は現物を未確認なので、一応引用しておきます.  
https://docs.google.com/spreadsheets/d/tuwM4TqcEQ7MGpUJSyLfhMQ/htmlview

【富江リスト】
 富江      1987年2月  ハロウィン 第一回楳図賞佳作入賞作
 富江PART2   1988年8月  ハロウィン
 地下室     1989年6月  ハロウィン
 写真      1989年11月 ハロウィン
 接吻      1990年2月  ハロウィン
 屋敷      1990年4月  ハロウィン
 復讐      1993年6月  ハロウィン
 画家      1995年7月  ハロウィン
 暗殺      1995年8月  ハロウィン
 毛髪      1995年9月  ハロウィン
 養女      1995年10月 ハロウィン
 滝壺      1995年11月 ハロウィン
 小指      1999年3月  ネムキ別冊
 少年      1999年11月 ネムキ
 もろみ     2000年1月  ネムキ
 ベビーシッター 2000年3月  ネムキ
 ある集団    2000年5月  ネムキ
 通り魔     2000年7月  ネムキ
 トップモデル  2000年9月  ネムキ
 老醜      2000年11月 ネムキ
 銀河      2000年?月  週間ビックコミックスピリッツ

【富江の特徴】
富江には次のような特徴がありますが、人智を超えた富江について全てを語るのは誰にも出来ないと思います.
・和風の美人.大人だけでなく子供として登場する場合もある.左目尻にホクロがある
・性格がすごく悪い.全ての男は自分に興味があると思っている
・見下している者から口撃されると頭から化け物が発芽する場合がある
・醜い部分も写ってしまうので写真が嫌い
・金や美食や美男子が好きである.貧乏人やブ男は容赦なく切り捨てられる
・人を狂わせ操る異能力を持っている
・たいていの男は富江に病的に夢中になる.そして富江を殺してしまう
・殺されてバラバラにされた富江の肉や血液から富江は再生する
・焼却すると再生しないが、生焼けならば再生可能
・臓器移植や輸血された人は富江に変身してしまう.このタイプの富江は成長し老化もする
・肉片から再生したタイプの富江は、最初から大人で、老化が遅い
・富江同士が出会うとお互いが反目し殺し合いになる
・戦闘能力は人間と変わらない.殺されるときは普通の人間並みに死ぬ.痛みも感ずる
・蘇生過程の富江は酸や放射線では死なない.焼却すれば殺せる
・増殖した富江が何処に居るのかは不明

【作者】
伊藤潤二という漫画家のユニークさはその思いも拠らぬ発想にあるのは論を俟たないだろうが、画力の進歩(変遷)を見るのもまた面白い.伊藤潤二はキャリアの最初から漫画家を目指していたわけではなく、本業は歯科技工士で、1987年に富江を描いた時点ではすでに23歳でした.その後1990年まで漫画を描く傍らで歯科技工士もやっていたそうです.
漫画家の画力云々というのもおこがましいですが、とても美しい絵を描く伊藤潤二も、最初の作品における画力は、なんとも素人っぽかったのでした.それを佳作と謂えども入賞させた選者の目はさすがだなと思います.

富江 1987年2月   第一回楳図賞佳作入賞作
↓これが最初の富江.まだ絵は上手くはありませんが、将来の絵柄の方向性が見て取れます.男はこの先も富江の増殖のために暗躍する高木センセイ.
<あらすじ>
高校生の富江はクラスで男をたぶらかして反感を買い、事故死し、クラス全員に死体をバラバラに切断される.クラス全員で分担してその肉片を各所に捨てたのだが、海岸で再生途上の富江が発見される.富江恐るべし.
↓第一作には、このような体勢の崩れた絵が多いです.荒削りだけどいい感じ.このようなアンバランス感覚は後の作品では次第に薄れてゆくのですが、新しい作品でもたまにこういう構図が描かれる事もあります.
学生時代のわたしはマンガ研究会で麻雀を打っていたので、絵が上手い人ならたくさん知っています.マンガは個人技ですから、絵が上手ければとりあえずマンガ創作の準備は完了です.けれどもマンガを創作するには、絵の技術よりも、表現したい何かを持っているかどうかの方が重要でした.伊藤潤二の第一作を読むと、表現したいものがたくさん在りそうだと感じます.

富江PART2  1988年8月
↓第一作から約1年半後に描かれた富江、、、絵柄が美しくなりつつあります.
<あらすじ>
何人目の富江なのかは不明だが、富江の死体が腎臓移植に利用される.移植された少女が腹痛を訴え、緊急手術で体内から取り出されたのは蘇生途中の富江の頭部であった.恐怖はまだ始まったばかり...

地下室  1989年6月
二作目から10ヵ月後のリリース(=デビューから2年4ヶ月).臓器移植にまつわるエピソードとして「富江PART2」の続編である.富江が一層美しくなりました.

<あらすじ>
↓摘出された富江の頭部には、何をしても死なない驚くべき生命力が備わっていた.
↓完全体に成長した富江は医師のマンションに匿われるが、マンションを抜け出して病院に放火する.一方、富江の腎臓を移植された少女は、容姿が急速に美しくなり、やがて富江そっくりの姿と性格になり病院を去る.富江の細胞に乗っ取られてしまったのだった.

写真  1989年11月
3作目からわずか5ヶ月後に4作目の富江をリリース.「写真」「接吻」「屋敷」は富江初期作品のクライマックスを成す三部作.本作品は、富江シリーズ中でもかなりグロい部類だと思う.菅野美穂主演の映画「富江」はこのシーンが映像化されていたと思う.
この頃の伊藤潤二は富江以外の作品もドカドカ描いていた.天才が思うままに創作していた輝かしい時期だったろう.

<あらすじ>
↓高校の風紀委員長である川上富江.取り巻きの男達を引き連れている.だが写真に撮られると醜い正体が顕わになってしまうことが判明する.
↓取り巻きの男子に後頭部の異物を切除するよう命じた富江だったが、男子は誤って富江の首ごと切断してしまう.富江の首はそれでも死なない.男子は富江の首を持ってどこかへ去ってしまう.首無しの胴体からは、まもなく頭部の再生が始まり、歩いてどこかへ立ち去ってしまう.

接吻    1990年2月
前作「写真」の続編.

<あらすじ> 
↓富江の首を切断した時の血液が染みたカーペットから、富江の上半身が再生してきた.山崎先輩は富江の上半身とキスするが、富江を切り離そうとしたところ大出血し富江の再生は止まる.
↓山崎の病室から見下ろすゴミ捨て場には、富江の血液が染みたカーペットが捨てられている.そのカーペットからは黒髪の女性の頭部が成長する.
↓ある日、その頭部が一斉に病室を向いて山崎の名を呼ぶのであった.あの悪夢が何倍にもなって襲ってくる事を予感させる.

屋敷    1990年4月
デビューから約3年が経過.伊藤潤二が歯科技工士を辞めて漫画家一本になったのも1990年だそうだ.
「写真」「接吻」と続いて「屋敷」で完結.この時点の絵は、初期伊藤潤二の完成形だと思う.

<あらすじ>
資産家の屋敷を乗っ取った富江.
↓屋敷では高木によって富江の生体実験が行われていた.「写真」で切断された頭部も実験体になっている.
↓実験体の富江が暴走したが、警察が踏み込んだ時には化物も富江も不在だったという.

復讐    1993年6月
前作「屋敷」から3年も経過して富江シリーズを発表.この作品の富江が最も好みな絵柄です.細い描線、乱れた毛髪の一本一本まで描く執念に感服します.

<あらすじ> 
↓冬山にて、全裸で倒れている女性が発見される.その女性は生きていた.富江だからである.保護・避難した山小屋で、1ヶ月前から冬山に放置されていたと語る富江.
↓富江の虜になった男性は、富江を殺す欲求に抗えなくなる.富江は腹を刺されて死亡.生命力の強い富江だが、殺されるときにはあっさりと殺されてしまう.感ずる痛みも通常のようだ.そして富江の恐怖はいつも殺した後にやってくるのだ...
↓富江を殺した山小屋から逃げ出した登山家は、1ヶ月前に遭難した遺体を発見する.そこには遺体を食べて成長する別の富江がいたのだった.

画家    1995年7月
さらに2年後、富江がリリースされました.この時期以降はまた絵柄が変わりまして、しっかりとした描線になりました.
<あらすじ>
↓人気画家のもとへ現れた富江は、絵でもって美貌を記録するよう画家に命ずる.画家は富江の美醜を完璧に描いたが、富江はそれを気に入らない.富江に罵られて逆上した画家は富江を殺し、ミンチにする.ミンチからは富江の再生が始まる.

暗殺    1995年8月
富江同士が殺しあうのは「地下室」以来久しぶりの展開.男に命じて殺させるのがその手口.

<あらすじ>
↓通り魔に刺されて瀕死の富江は、拾ってくれた男に土葬するよう依頼する.富江は焼かれて灰になると再生能力が失われるからだ.
↓土葬したが、すでに傷口から別の富江の頭部が再生しており、頭部は男に命ずる、、、頭部を切断して持ち帰れと.男の部屋で再生過程にある頭部は男に様々な難題を命じる.
↓男は土葬した富江の復活体に遭遇する.復活体の富江は、再生過程にある頭部を退治するよう男を諭す.その頃、再生過程にある頭部は、自分に不利になりつつある事態を察知して焦燥する

毛髪    1995年9月
この作品には、富江の毛髪しか登場しません.毛髪にも人体乗っ取り能力がある.

<あらすじ>
↓父親が隠していた美しい毛髪を娘が発見する.娘の友人が一本の毛髪を頭につけると、一瞬で植毛され、抜けなくなってしまう.毛髪をたくさん植毛した友人の髪は富江のように美しくなる.友人に執着する父は、1年前に富江を殺したのだった.
↓友人は、付きまとう父の前で全身から毛を発散し、倒れる.

養女    1995年10月
子供の居ない老夫婦が養女をもらっても、すぐに死んでしまう.召使いが養女に毒を盛っていたのだった.自分が養女になって財産を相続するのが召使いの目的だ.

<あらすじ> 
↓ある雨の晩、庭に倒れていたのが富江.屋敷に住みつき老夫婦の寵愛を受ける.
老婆は狂って自殺する.老人は富江をめった刺しにする.老人は召使いも殺す.富江は一命をとりとめ、遺産を相続する.

滝壺    1995年11月
第一作から暗躍してきた高木が登場するのはこれが最後だと思う.

<あらすじ>
↓溺死者の多い滝壺にもぐってみると、滝壺の周囲から生えた女性に溺死者が食べられていた.
↓ある夜、その滝壺から同じ顔の女性達が出て行った.女性達の行方は杳として知れない.
↓滝壺の富江はどこから来たのか? 高木が大量の富江の肉片を滝壺に捨てたからだった.高木は、富江の実験を推進すべく暗躍しているのだ.

小指    1999年3月
<あらすじ>
↓後妻として登場した富江は、義理の息子達に殺されてしまう.末っ子が死体遺棄を命じられる.指名手配された末っ子は洞窟に隠れるが、ポケットの中に富江の指が残されているのを発見する.焚き火で指を燃やしたはずだったが、、、灰の中から富江の再生が始まる.
↓人差し指と中指と薬指は再生し洞窟を後にする.他の指に比べて再生が遅かった小指も洞窟を後にする.一人洞窟に残された末っ子は瀕死の重態のまま放置される.

少年    1999年11月
<あらすじ>
↓今回の富江は岩場の溺死体として登場.子供に食事を運ばせて次第に再生する.
↓富江の毒気に当たって子供は発狂.父親も富江に誘惑され行方不明に.子供は生き残るが大人になって凶悪犯罪を繰り返し、死刑になる.幸せな家庭は富江によって破壊されつくした.

もろみ   2000年1月
酒好きの向きには旨い日本酒を飲みたくなる逸品です.

<あらすじ> 
殺した富江の処分に困って、日本酒の発酵タンクに富江のミンチを投入してしまう.富江が再生するのを防ぐためにタンクを常に攪拌し続けなければならない.しかしタンクの表面で発酵しているのは明らかに富江である.杜氏たちも経験のないほどの良質の酒が出来上がる.銘酒「富江」誕生の瞬間である.

ベビーシッター 2000年3月
部屋に監禁され、富江の育児をするよう強制されるベビーシッター.今回の富江は、心臓から頭部が生えた異形の生命である.

ある集団    2000年5月
富江シリーズもいよいよ終盤.この作品は、富江の手のつけられない横暴ぶり表現した傑作だと思う.「あんたたち死になさい」のコマは最も好きなコマのうちの一つだ.

<あらすじ> 
富江は新興宗教の教祖のような立場で登場.横暴の限りを尽くすが、富江に心酔する信者達は富江にひれ伏している.やがて信者達の殺意が高まり、教団は崩壊する.

通り魔    2000年7月
富江シリーズ完結の三部作の1作目.黒服の男は高木かと思ったが、そうではなかったのです.

<あらすじ>
ある町に、そっくりな容姿と性格をした3人の女子が住んでいる.彼女達は乳児時代に富江の血液を注射されたなれの果てだった.3人の富江は殺し合いを始める.血液を注射した犯人である黒服の男が正体を語りだす.

トップモデル  2000年9月
<あらすじ>
黒服の男が生まれた経緯が明かされる.
男は有名なモデルだった.陥落しない富江に業を煮やした男は富江の顔を切り刻むが、多数の富江が再生する.富江を燃やそうとして男も大火傷を負い、醜い姿になった.そして男の究極の目的とは、、、、

老醜    2000年11月
富江、完結.

<あらすじ>
黒服の男の究極の目的は「老いて醜くなった富江を嗤うこと」だった.富江の自由を奪うため、富江をコンクリート詰めにする.それから数10年後、男が100歳を越えてコンクリを破壊すると、老婆になった富江が姿を現す.

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最後に、ヒラサカのリアルエピソード.
富江のマンガを所蔵していた元彼女は、いまでは奥さんになっているのです.(つげオチ)
わたしも富江によって人生を狂わされた男の一人と云えるのかもしれません...
富江の物語は終わらない、、、

かしこ


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