2012年9月16日日曜日

アニメ 「秒速5センチメートル」がわたしの映像快感原則のど真ん中

新海誠監督はデビュー作の「ほしのこえ」をほぼ一人で作ってしまい、アニメマニア的には一気に有名になりました.

2002年当時、一人で30分のアニメを作ってしまうのはかなりスゴイことと思われ、しかもそれをセルDVDで流通させるというド根性型マーケティングをやってしまった新海誠とはどんなスゴイ奴なんだ?というのがわたしの興味を惹いたところでした.一人製作を実行した者は新海誠の前にも後にもいないんじゃないかな? (実験アニメを除く)

その10年後の2012年、わたしが自分の会社を起業するにあたり、たとえ零細であっても全て自力で全うするという意志の原点として「ほしのこえの新海誠」のことを位置づけています.一人で30分のアニメを作って流通させたすごい奴もいたじゃないかってね!

プロのアニメ制作者の中には、一人でアニメを作るなんてけしからん! 嫌いな奴も含む大勢で作るのがアニメなんだ!とおっしゃる方もいました.それは誰かって? ガンダムの富野由悠季さんです.富野が嫌いな奴は安彦だったりする.

それで「ほしのこえ」の出来はどうだったかというと、亜光速航行による時間隔絶が「トップをねらえ!」のパクリで、電柱を見上げたカットが「エヴァ」のパクリで、こりゃ庵野秀明ファンのマスターベーションじゃねぇか!?と思っちゃいました.なのでわたしは「ほしのこえ」の作品自体のことは評価していません.

「ほしのこえ」の出来にそんな風に肩すかしを食らったせいで、その次の「雲のむこう、約束の場所」のことはチラ観してまぁこんなところだろと理解してほぼスルー.そして3作目の「秒速5センチメートル」は、個人製作という特徴を除いたら評価すべき点はないだろうと思って完全スルー状態でした.

ところがある日、秋葉の殺人事件が起きた交差点のところのソフマップで、PCモニタ売り場をブラついていたら、なんかヤケに画像が綺麗なアニメが流れていたんです.いったい何なんだこれは、、、、としばらく観ていたら、やがて「one more time one more chance」のPVみたくなって、エンドロールでその作品が「秒速5センチ」だと知ったと、それがわたしが「秒速5センチ」に出会った瞬間でした.

これは観ずばなるまいと、DVDを借りて観て、これはHDで観ずばなるまいとBDを買い、PS3で朝晩何度も観るという日々が2ヶ月は続きました.カラオケでは「one more time...」を歌いまくりました.なぜかって、わたしにとって「秒速5センチ」は、映像快感原則のストライクゾーンのど真ん中なんですもん.

↓まず背景が好きです.コントラストが強くて、ビカッと光って、空気が冬の朝のように透明な背景画によってわたしの脳は脳内麻薬をふんだんに分泌してしまいます.新海誠作品は一貫してこのテイストの背景を採用しているように思います.
↓ちなみにこちらは中目黒駅北側の歩道橋から駅ホームを捉えた背景画.見慣れた風景じゃ.描き込みはとても細かいです.地上を走るクルマのパースもとても正確です.電車とかクルマのような移動物体のパースが狂った画像はすぐに嫌になっちゃうわたしです.

そして、ほぼ全てのカットが、奥に人物-手前に邪魔な物体という構図が採用されていて、しかもカメラがゆっくりと左右にパンするように作られていて、この奥行き感がも~たまらんとです.あぁ至福すぎる映像.
↓このカットは暗い玄関側から奥の居室を低いカメラ位置から見た構図.カメラは左にパンします.
 ↓たぶん新宿.奥に代々木のDocomoビルがそびえている.手前の人垣~ビル~Docomoへと奥行きがあります.そして手前には雪を降らせている.カメラは上にパンします.
 ↓あかりと離別するシーン.カメラが二人の方を向いてないし(ドアの戸袋に向いてしまっている)、手摺が二人の手前にあって邪魔なはずですが、クールなカットです.
 ↓種子島空港で貴樹を見送る花苗.柵とポールが奥行きを作っています.柵のピントがピッタリでポールが後ピンになっている画像がアニメならではと言えるんじゃないでしょうか?
 ↓結婚間近の大人になったあかり.在来線の座席の机が手前にあって邪魔で気持ちいいです.カメラは左へパン.
 ↓ビルの出入口を上から広角カメラで見下ろしたような本来は見苦しいカットだが心地よい.カメラは右へパン.
 ↓電車のドア.これは実写ではカメラの物理的制約で撮影できないと思われます.ドア中央だけにピントを合わせています.あぁ至福.
 ↓実家から東京へ戻るあかりが父母に見送られるシーン.カメラは左へゆっくりパンしていきます.背景満載で、人なんか小さいこういう画像がますます桃源郷.

といった具合に、観ていて気持ちよすぎる映像の「秒速5センチ」なわけですが、ストーリーはどうでしょうか?

主人公は貴樹クンです.貴樹クンが小学生時代に付き合っていたあかりチャンとは親の転勤で別れてしまいましたが、貴樹クンは大人になってもあかりチャンのことが忘れられません.高校生時代にはかなえチャンが貴樹クンを慕ってくれましたが、あかりを忘れられない貴樹クンは気付かないフリで通します.やがて社会人になって付き合った理沙からは「あなたとは1cmも近づけなかった」と別れを告げられます.
一方であかりはというと、貴樹クンのことは忘れてしまって人妻になっています.
↓満たされぬ気持ちの代償のように仕事に打ち込んだけれども、やがて会社を辞めてしまった貴樹クンが、ある日、子供の頃にあかりと通った小学校の通学路の踏切で、大人になったあかりとすれ違います.あかりも貴樹に気づきます.
 ↓踏切の向こうであかりが振り向いてくれることを期待して小田急線の通過を待つ貴樹.
↓しかし、電車通過後の踏切の向こうにはすでにあかりの姿はなかった.落胆した貴樹だったが、最後に会ったときのあかりに言われた「貴樹クンはきっと大丈夫だから」という言葉が思い起こされ、僕はもうあかりの残像を追いかけなくても生きられるんだと気付き、軽い気分になって第二の人生を歩む意欲が湧いた貴樹クンでした.

というわけで「秒速5センチ」はモテ男のジクジクとした心の物語です.どうしてこんな話を作ったのか、新海誠の気持ちがわかりませんが、わたしは観ていて不快にはなりません.なぜかというと、わたしはオフコースが好きだという変わった性癖の持ち主だからです.これをカミングアウトするとたいていドン引きされます.
オフコースで最も好きな曲は「愛の終わる時」です. 根が鬱なオフコースの曲中でも最も鬱指数の高いと思われるこの曲が好きなわたしであるからこそ、貴樹クンのジクジク心象風景が不快にならないで済むのだと思います.

最後に、「One More Time, One More Chance」の動画をリンクしておきましょう.興味があったら観てもよいでしょう..



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1 件のコメント:

  1. ああ、そういえば、BSかなんかで録画したっきり、観てないなあ。
    観てない作品がどんどん増えるなー(´・ω・`)

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