2012年8月9日木曜日

「おおかみこどもの雨と雪」を観て細田監督の作家生命を危ぶむわたくし

「おおかみこどもの雨と雪」を観ました.   下記の文はネタバレはほとんどしてません.

細田監督というとやはりあの名作「時をかける少女」の大感動を忘れることはできません.その次の「サマーウォーズ」は感情移入することは難しかったものの2作目ということで大目に見ておこうと納得したわたしでした.そして1作目の余勢を駆っての3作目である「おおかみこどもの雨と雪」は、細田監督自身がどういうふうにセルフプロデュースするのかを位置づける意味で重要な作品だと思われ、それを確認する思いで劇場へ足を運んだわたしでした.

そういう見地からすると、「おおかみこども...」のわたしの印象は、
暢気に後退戦してる場合じゃなかったはずだが、大丈夫なのか?細田さん?

リュックベッソン監督の「フィフスエレメント」というSF映画を印象深く記憶している方はあまり多くはないと思います.それほどヒットはしなかったし、評価も高くはなかったので.でも、わたしが「フィフスエレメント」を観て良いなぁと思うのは、あの映画ってSFXもキャスティングも脚本も豪勢に金をかけたくせに、メッセージはたった一言、
第5番目の要素は愛なのよ、愛!
たったそれだけしか言ってないってことなんです.
映画って、グダグダと思想を述べると、ジブリの「平成狸合戦ぽんぽこ」みたく論文臭くてウザい作品に成り果てます.映画が大切にしなくちゃいけないのは複雑な論理ではなくて、どういった感情にフォーカスするのかをたったひとつ決めてそれに向かってダーッと突き進むことだと思います.わたしが好きな言葉でいうとフェティシズムです.「フィフスエレメント」がダーッと突き進んだのはあっけらかんと「愛なのよ!」だけであって、リュックベッソン監督の製作姿勢と肝の据わり方に脱帽したわたしです.
かつての宮崎駿は「カリオストロの城」で「クラリスフェチ」全開で作品を作ってしまうリビドー中年だったころは面白かった.けれど、ジブリで製作し始めてからは、理屈の映画しか作れなくなってつまらない作家に堕落してしまいました.
富野由悠季がこれまたフェチ全開な奴で、「1stガンダム」なんか自分の好みの女を描きたくて作ったんだろ!とツッコミたくなる恥ずかしさがモロ見えです.そこが良いんですが.

だから、映画が売れる必要条件として、どういうフェチにフォーカスするかがマーケティング的に重要で、「クラリスフェチ」「ツンデレ」「巨乳フェチ」「妹フェチ」、、、、いろいろありますが、あまりにも特殊なフェチをセレクトしてしまうといくらコアなファンをゲットできたとしてもマーケットが小さ過ぎて売れません.その点、「謎の彼女X」の「よだれフェチ」は見事でした.斬新で他者にマネの出来ない独自路線でマーケティングに成功しました.

もちろんマーケットが広いフェチを選べばそれで映画が成功するとは限りません.「カリオストロの城」がウケたのはカーチェイスや時計台やお城や偽札やジョドーや衛士隊や埼玉県警が引きも切らず面白かったからです.

逆に、マイナーなフェチを絶えず選択しつつも死なない映画監督もいます.それは押井守です.この人って、銃器フェチ、人形フェチ、犬フェチ、、、、そんなですからマーケティング的におよそ不利な映画ばっかり作っていますけど、映像が優れているので映画はそこそこ人が入って赤字にはならないというサイクルを回せています.それもセルフプロデュース能力ですから否定しませんです.

前置きが長くなりましたが、細田監督の話に戻ります.

「時をかける少女」がウケにウケたのは、「恋におちたけど、彼が未来人なので別れが待っていた」というポピュラーなフェチを採用したことが上手いマーケティングだったと思います.ただしそれは必要条件にすぎず、タイムパラドックス、哀しい未来社会、初恋、高校生、などの身近な設定が巧みに演出されてピタッとはまったから大感動を巻き起こしました.なので「時かけ」を作ったときに細田監督のことをすごいなと思ったのは、フェチ設定の巧みさと、実際に映画を成り立たせる小技の巧みさを併せ持った人だなぁっていうことでした.

「サマーウォーズ」は、細田監督が結婚した時の体験がベースになっているそうです.奥さんの田舎が親戚一同大勢だったので、親戚一同団結して危機に立ち向かう映画を作りたいと思ったのが「サマーウォーズ」になったと.要するに「大家族フェチ」を中心に据えたわけですね.あまり広範なマーケティングを狙えるフェチとは思えませんでした.映画を成り立たせる小技については、VR、花札、サーバ、などが設定され、物量依存的なところが産みの苦しみを感じさせはしましたが、まぁよくがんばったんじゃないかねーと一定の評価をしました.

そして「おおかみこども.....」です.「恋フェチ」「大家族フェチ」ときた次は「子育てフェチ」というのが細田監督の回答でした.う~ん、そりゃウケる要素少ないだろ???   自分に子供が授かったので子育てについての映画を作りたくなったと推測しますが、「時かけ」の余勢を駆って企画することができる幸運なポジションにいる細田監督だから企画を通せましたけど、フツーは通らない難しい企画じゃないでしょうか? 「大家族フェチ」「子育てフェチ」と2本続けて私小説のような作品を作って、次も細田さんにぜひ作らせたいと思う出資者が出てきますかね? むしろ、細田監督は自身の作家人生の賞味期限を短くさせてしまったんじゃないかと心配です.

もちろん、難しいフェチ、あるいはマイナーなフェチを中心に据えてもなお、観客をうならせる映画を撮れる押井守のような監督なら作家人生を傷つける心配は少ないわけですが、「おおかもこども....」の映像や演出にはあっと驚くようなのはあまり無かったです.むしろ、深い森のシーンでは「もののけ姫」の劣化コピーみたいな画像が散見されてしまいました.また肝心の子育てシーンは、実際に子育て経験のある女性から見たらもっと死に物狂いになるんじゃね?と指摘されてしまうと予想.廃屋同様の古民家の瓦屋根の雨漏りを自力で修理してしまうのは、そりゃ無理ですとヒラサカが指摘してしまいます.なので小技の面でもあまり評価できかねました.

子育ての結果何が待っていたのかはネタバレになるので書きませんが、子育てを中心課題に据えた映画にしては、子育てによるカタルシスが乏しかったです.そもそも難しい課題ですし.

作品の冒頭で、細田監督が作った製作会社の「スタジオ地図」というテロップが出るのですが、それを見た途端、「細田監督よスタジオジブリにはなるな!」と念じました.ですが見終わってわたしが感ずるのは、「時かけ」で魅せた巧みさを減退させつつ、日テレで放映されることで知名度を維持しつつ、理屈でしか映画を作れない作家へと衰退してゆく細田監督の未来像でした.
平日の16:20の上映であるにもかかわらず、新宿バルト9の劇場はほぼ満員で、しかも半数が若い女性という興行的には成功していそうな「おおかみこども.....」ですが、素直に喜べないのは残念なことでした.


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9 件のコメント:

  1. うーん、見に行こうと思っていたんですが、どうしようかなあ。
    まあ、他の人がつまらなくても自分にはおもしろいという作品もよくありますから、やっぱみにいこうかなー。

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  2. アニメ作品の興業を盛り上げに言ってください.コードギアス亡国のアキトもな.

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    1. コードギアスはTV版もみていません。

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  3. あきとってフルーツバスケットにそういうキャラがいたような気がする

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    1. いました。草摩本家で、十二支の頂点に立つ人です。

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    2. やっぱそうでしたか.意外な方が出撃されますな.

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  4. 普段はアニメは殆ど見ないんですが、孫娘と映画館で見ました。
    廃屋のリフォームや女手一つでの二人子育て生活どこをとっても大変なんてもんじゃないはずですよね!!そういうところでのリアリティがないところが気にはなりました。でもそもそもの設定自体が超大変なんで、ここを切なくジエンドするにはこういう周辺はほのぼの幸せいっぱいにしておかなくちゃ話がまとまらないのかな、と思って納得(?)。
    4歳の孫娘はそれなりに悲しい物語と理解したらしく、最後には泣いていました。

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  5. 「時をかける少女」はアニメファンだけでなく一般人も大勢観に行きました.それは珍しい現象でした.「おおかみこども...」は一般人しか観に行かないスタジオジブリの位置づけへと向かう臭いが濃厚で残念です.

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  6. さきほど近所のシネコンで観てきました。子ども連れのお母さんが多い気がしました。ストーリーはあるんだかないんだか分からないものでしたが面白かったです。
    小学校高学年で、人間として生きるかおおかみとして生きるかを選択した姉弟はえらいと思いました。中学生くらいでなければ選択は難しいかな。

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