2011年10月28日金曜日

失業した理由シリーズ019 技術者は知らない管理屋というお仕事

本シリーズ017で管理屋は企業の心臓だと書いたら、管理屋ってなにやってるのという質問を頂戴したので、ひとつ記事にしとこう.

石田三成みたいなもんだと思う.

●次年度の予算策定のとき
金を差配するのが真の権力者だと考えると、事業部長って実はそんなに権限はないのである.一年間、何名の部下を抱えるか、金を何に遣うか、利益をどれだけ出すか、について本部長にご承認していただかないと何もできないのが事業部長だ.つまり事業部長は、承認していただいた金を執行する権限しかない.(予定よりも儲かった時に、予定をオーバーした分を使い切ってしまうということなら事業部長でもやれる!!)

で、管理屋であるが、事業部長の上位者である本部長付の管理屋もいるし、事業部長付の管理屋もいる.

本部長付の管理屋は、事業部長が持ってくる事業計画の妥当性を審査する株主とか投資家とかアナリストみたいな役割だ.だから、本部長付の管理屋がOKしてくれなくちゃ事業部長は来年度の予算をもらえない.

事業部長付の管理屋は、事業計画を作るときに、いろいろなシミュレーションをする.来期いくらで何台売って、開発費が何億だっていう単純計算では損益はわからない.償却費とか引当金とか宇宙のダークマターみたいな資金がいろいろあるのよ.来年度の部下の人数、サービス費用、減価償却、office賃料、事業所経費、広告費、本部上納金、リストラ効果、、、、わたしが思いつくのはこんなところだが、実際は他にもいろいろあるはずだ.妥当な範囲でこれらのパラメータを振って、事業部の利益をシミュレーションするのが管理屋の仕事.
だから、管理屋がシミュレーションしてくれてはじめて事業部長は来期の利益予想を知れる.そのシミュレーションのときに、来期は苦しそうですから、こういうリストラをするとこういう効果がありますって言ってくれるのが優秀な管理屋だ.豊臣秀吉にとっての石田三成はこんな役だったんじゃないかな?

●事業部の毎月の業績の確定
管理屋って、いつもexcelをいじっていて、遅くまで残業している.技術者でいたときは何をやってるのかわかんなかった.簡単には、金の支出と売り上げデータを元に、現時点での損益を計算しているってことだ.やはり事業部長にとって必要不可欠な役割だ.

すると、その程度の仕事で遅くまで残業する必要があるの?という疑問が浮かぶ.それはねーたぶん、しょっちゅう何かトラブってるんだ.たとえば、、、
「海外の販社がいきなりサービス費用の引き当てを1億円も請求して来たってさ」
「えーっ、そんなのちゃんとやってるだろフツー」
「調べてみよう」
「べつにおかしくないけど......」
「あっ、もしかして引き当てし忘れてるってこれのこと?」
「どれどれ」
「うわ~本当じゃん、まずいだろこれ」
「いまただでさえ赤字なのに、この1億円の穴をどう埋めんだよーっ」
こんなスパイラルにはまってんだよきっとw.

だから、有能な管理屋がついた事業部は、その管理屋のおかげで埋蔵金を発掘して、黒字転換したりすることもあるわけ.となるとある意味事業部長よりエライわけよ.だから有能な管理屋は本当にエライと思うね.尊敬に値するよ.

●経費削減プロジェクト、引っ越しするとき、リストラするとき
事業部が赤字と予想されるとき、損益を改善する手段はいろいろある.
・officeの賃料が高いので、officeの面積を圧縮してキャッシュアウトをセーブしよう.
・田舎の事業所に引っ越せば家賃が安くなる.
・不要な資産を除却して、売って、償却費を減らせばよい.
・日本人をリストラするよりは先に海外販社のリストラでしょ.
・アメリカではマイノリティはクビにできないから、部署ごと潰そう.
・工場を統合してリストラしよう.
・次期商品の開発をstopして技術者をリストラすると、来期だけは黒字になる.
・サービスとQCを工場に移管して経費を安くしよう.
・自然災害で破壊された設備の復旧費用はいくらか?
などなど....
これらのすべてについて、経費削減効果がどのくらいかをシミュレーションするのが管理屋の仕事.技術者顔負けの専門性が管理屋にも要求されると思われる.

●事業部が合併するとき
合併によるメリットをシミュレーションするのはもちろん管理屋の仕事.
事業部長同士を握手させるお膳立ても管理屋の仕事.

●事業の利益を配分するとき
巨額の設備償却を要する事業では、稼ぎ頭のカテゴリに設備償却費を厚く盛って、新規カテゴリには償却費を少ししか盛らないようにする.また、赤字の部品事業に黒字の完成品事業から利益を環流させる仕組み作り.こういう資金計画は管理屋の仕事.

----
経理屋は、決算するのが仕事なので管理屋とは違う.管理屋は投資するのが仕事.ある人がこう言ってた.「経理は死んだ子の歳を数える仕事だ」  確かにそう思う.

わたしは技術しかやりたくなかったんだけど、でも、管理屋が金を廻して支えているんだってことを骨身に染みて理解できたのは、すごく社会勉強になって良かったと思うんだ.

--続く--      つづく         前へ

人気ブログランキングへ

4 件のコメント:

  1. をぉっ、素晴らしい解説、ありがとうございます。

    デバイス、メディアが別の時にはよく見えなかった、或いは、良く機能できていなかった、ということですかね。

    返信削除
  2. 長い間技術者だったので金の話には疎かったですが、管理職になったら金の話が多くなったと、そんな成り行きです.デバイスとメディアを合体させてくれたのももちろん管理屋のおかげです.

    返信削除
  3. 素人考えで恐縮なんですが、ここではひとつ疑問が。

    デバイス屋さんは「部品屋」として機能すれば終わりかなー、とか思うんですが、メディア屋さんって、テープストリーマ本体が売れた後も延々と商売が続くじゃないですか。そもそも事業部が違っていたっていたっていうのがよくわからんです。

    プリンターとかって、インクとか紙とかで儲かっているんだ、とか聞きますけど、テープストリーマもそうなんじゃないのですか?
    だとしたら、事業部が別れているとスゲーやりにくそうに思います。思惑の一致とか、利益の分配とか。

    だから「できる管理屋」がくっつけてくれたにしても、最初からそうでないことの方が不思議です。事業本部が同じなら変なことと言うほどのことではないんですかね。

    返信削除
  4. そもそも最初からヘッド+テープ+ドライブが別々だったのはなぜという質問をいただきましたので回答いたしますと、それは30年間ぐらいの経緯によります.
    かつてβmax,8mm,DVCなどでめちゃくちゃ儲かっていた頃は、ヘッド屋単独でも儲かりまくっていたので、独立採算制で何ら問題なく活動できていました.さらに、ヘッド独自の事業プラン(外販とか)を持つ方がよりアクティブだし、それにポストも増やせるというわけで、独立事業体のアウトプットを任意に組み合わせて完成品を作るという運営が理にかなっていたのだと推測します.私が入社する以前から分離してました.
    やがて、DVCですら市場から姿を消そうとする時期が来ると、貧乏になるので狭まった出口に効率的にリソースを集中投下するしかなくなり、ヘッド+テープ+ドライブが統合される場面が来たと.(遅かったかもですが)

    返信削除