2011年10月25日火曜日

失業した理由シリーズ016 グルグル回って暗転するヘリカルスキャン人生

本シリーズ015までは、ヘリカルスキャンをおもしろがっていろいろと出しゃばってきた結果、転職したり収入が増えたりして、長い目で見れば上り坂だったなぁという回想だった.

ここからは次第に状況が暗転する.だいたい2003年頃から後のことだ.

日本の輸出製造業が、円高による業績不振への対処としての工場の海外移転という施策だけでは足りず、研究開発や事業の選択と集中に取り組み始めた時期でもある.その行く末には、ハイパー円高への対処として、日本国内設計の打ち切りというところまで行くのであるが.

テープストリーマも自由な投資はしづらくなっていった.投資が絞られつつある環境下で、どっちが正しい投資なのかで険悪な論争をしたことがある.研究所が出しゃばってひどい目に遭ったという話だ.

研究所とはピーク性能を1台だけ出せばよい機関なので、量産性や経時劣化を無視した「研究成果もどき」を事業部に押しつけるといった無茶をやることがある.だから、事業部は研究所のアウトプットを査定する目を持っていなければならないのだが、私の警告を無視して研究所のアウトプットを盲目的に事業部が採用してひどい目に遭った.

事業部が持つべき査定眼とはなにか?

技術の発展には歴史(=因果関係)がある.光DISKを例に説明するとこういう因果関係のことだ.
●かつて主流だった光磁気DISKがDVD-Rに負けた理由は、松下が開発した相変化技術のほうが光磁気DISKよりも高SN比だったからだ.
●長い間DVD-Rの天下が続いたのはBDのための青色レーザーの開発が難航したからだ.
●光DISKの転送レートが遅いのは”焼く”からだ.(光DISKはレーザーで加熱して焼いているのである)

だから、寿命が1時間しかない青色レーザーで出した高記録密度の成果や、光ピックアップを2個搭載して転送レートを2倍に速くしたなどという研究成果を、事業部としては量産には至らぬと断定して一蹴しなければならない.それが査定眼だ.

さて、我らがテープストリーマの技術発展史によると、研究開発の骨子をこう設定するのが妥当だ.
●最も進歩が著しいのはプロセス技術である.テープの進歩は中間ぐらい.メカは発展しないのでアテにしてはならない.だが最も進歩しないのはヘッドテープ摺動系だ.
●したがって、プロセス技術であるLSIとヘッドでブレークスルーすべきである.
●それがダメなら、パラダイムを変えるようなブレークスルーがなにか必要だ.

研究開発方針はこのようにして骨子を固めるのだ.保守思想とそこからの飛躍の2段階である.

ところが、研究所に、O主任技師というペテン野郎がいて、こいつが歴史観無視のとんでもないプランを持ってきやがった.「テープヘッド摺動系ががんばる.プロセス技術を甘やかす.」

わたしはこんな「歴史観無視プラン」はありえないと確信した.わたしは投資は必要だけれども歴史観遵守な対抗プランも提案した.それに賭けよと訴えた.

O主任技師は、私への対抗手段として、私のプランをあの手この手でつぶし、商品化スケジュール的に事業部が「歴史法則無視プラン」を採用せざるを得なくなるのをじっと待っていた.その間、私は各方面から非難された.
「LSI屋が摺動系に口出しするのは逸脱行為」
「人が嫌がる物を推進するな」
「やってみないうちからダメと言うな」
トンチンカンなことを言うな!! やってみないうちから本物を見抜いた者にしか勝利は訪れないのだ.こういうところは、ソニーもすっかり官僚的になっていたってことなんだねぇ.

やがて、私のプランは私を外したところで却下され、O主任技師の「歴史観無視プラン」に事業部の投資ボタンが押された.私は憤慨した.テープストリーマ事業部を出て行く準備を始めた.

「歴史観無視プラン」を成立させるべく、事業部のエンジニアが必死に検討を重ねるのをわたしは脇見していたが、こりゃやっぱダメだという判断が下されるまでさほど時間はかからなかった.私の正しさが(半分だけ)立証された.なにせ、たった30分でヘッドがダメになるのである.商品化なんかありえん”研究成果”だった.O主任技師が虚勢を張るために考えたプランなんか、ライバルプランを政治的に蹴落としたって筋が悪すぎてダメってことだ.

O主任技師は、日本帝国陸軍みたいな奴だった.手段の合理性すら査定できない無能なくせに、「いま撃って出ずに日本人の誇りは守れない」みたいな大きな主張をする奴.この場合は「下火のテープ事業の永続には記録密度の大幅アップが不可欠だ」っていうのが彼の「大きな物語」だったようである.大きな物語を語る前に、合理的な手段を考える程度の知力を養えってんだ.

O主任技師のプランがダメってことは確定した.研究所は「スミマセンでしたー」で終わるけど、事業部はそうはいかない.なんとかしなくちゃいけない.どうするか? すでに私のプランはつぶされて復活の目はない.そこで、私はプラン2を提案したが、茨の道であるのは承知していた.

そもそもO主任技師のペテンで正統な技術開発が潰され、茨の道に突っ込んでいかなければならないエンジニアの不憫さを考えるだに、それを食い止められなかったことが悔しくて、私は泣いた.目黒のegobarでボロボロと泣いた.あのときegobarのマスターはどうしたんだろうと思ったに違いない.egobar7周年記念Tシャツをもらったのはたしかそのときだった.サンクス、マスター.

--続く--        つぎへ          前へ

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前回のブログの、
クイズ: 少女セクトで唯一男性キャラがいるコマがあります.それはどこでしょう?
これの回答です.
桃子が大神先輩を殴って共学の高校に転校して、下駄箱にメアドを貼りまくられるシーン.
2巻の155ページにあります.う~ん、男出すなよもぅ.

3 件のコメント:

  1. O主任技師とか言うヒトがペテン野郎だということは判ったのですが、その言に賭けた事業部の理由も聴きたいですなあ。「官僚的」というくだりが全てなのでしょうか。

    研究所なんていうものは(良くも悪くも)単なるツールに過ぎず、事業部の責任者こそがもっとここで非難されるべきなのではないか、と。

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  2. そうですね.私が憤慨した理由もそれです.
    ただやはり、逮捕されるのは詐欺の実行者であって、詐欺にひっかかった者は逮捕されないのと同じ理由で、事業部の責任者は罪一等を減じられるべきと思っています.
    あと技術開発の慣性力も抗いがたい事情です.新ヘッドの開発には2~3年かかります.だから研究所が先鞭をつけてくれないことにはもはや事業部の責任者ですらどうにもできない.本来はツールにすぎない研究所が起こした謀反であっても時間切れで事業部が受け入れざるを得ないこともあるという.
    技術オリエンテッドな商品の開発体制の中にO主任技師がいてしまった不幸を私は呪います.
    もっとも、O主任技師を登用した者は事業部のかつての責任者だったわけですが....

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  3. 皆さん大変苦労されてるのが感じさせられました。
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